闘争心




ある晴れた日。
今日も今日とて、平和な今日を噛みしめるべく本屋で購入した小説と漫画を持ち、定位置となりつつある公園の木の近くにあるベンチに腰かける。
平日だからか、さほど人のいない公園は静かで、時折吹く風が名前の頬をかすめていく。
そんな陽気で、眠くなるなというもは無理な話で、早々に眠りについていた。

「やっぱりここか」

少しだけ呆れが含まれた声を出したのは、八左ヱ門だ。
自分の犬達が、散歩をしている途中で、急に走りだした行動に驚きながらも、最近慣れてきた行動。
猛ダッシュで走って行った自分の犬に追いつくのは困難だが、行き先がわかっているからか、迷いなく犬達の後を追いかけて行く八左ヱ門が辿り着いた公園の一角には、予想通り自分の犬と一緒に寝ている名前の姿があった。
だが、彼はいつもと違う光景を目にしていた。
いつもは、自分の犬達と寝ている名前だけだったのだが、今日に限ってはもう一つの存在が増えていた。
赤く、目に入る色が気持ちよく寝ている蛇のジュンコの姿が見えた。
なんでここに居るんだと疑問に思い軽く首を傾けながら考えるが、答えが見つかることはない。
いつしか思考は、きっと後輩が必死に探しているだろうという答えになり、携帯を取り出すとメールを入れた。

「ジュンコーーー!!」

大きく、少し泣き声が遠くからだんだん近づいてくるのを聞いて、八左ヱ門は苦笑しながら来たなと思いながら、走ってくる彼、伊賀崎孫兵の姿を見つめていた。
どこから走ってきたのか、汗ばんだ服に、少し息切れをしている彼を見て、口端が引き攣りそうになったのは一瞬だったが、孫兵の意識はジュンコ一筋のため、気づかれることはなかった。
彼の声が聞こえたからか、ジュンコは眠っていた体を持ち上げて主人を見つめた。

「探したよジュンコ」

さぁ、一緒に帰ろうかと言いながら差し出した手にいつもならスルスルと巻き付いて上り、首へと巻き付くのだが、今日のジュンコは違い、今いる名前のお腹の上から動こうとしなかった。
どうしたんだジュンコ、ほら帰ろうとズイっとさらに手を差し出すと、名前と孫兵を交互に見て困っている。
どうやらジュンコはもう少し名前のお腹の上に居たいようである。
孫兵はそんなジュンコの気持ちに気が付いたのか、信じられないとばからに目を見開くと、今まで何も言わずに見守っていた八左ヱ門へと目を向けた。

「いや、な。俺の犬達を見ても分かるように、動物に好かれるみたいでさ」

苦笑しながら名前をフォローすると、孫兵はもう一度名前へと視線を向け、愛しむようにジュンコを見つめ、ジュンコの名を呼んだ。
ジュンコも孫兵の気持ちに気が付いたのか、気を使ったのかはジュンコにしかわからない(おそらく後者かもしれない)が、一度名前のお腹にスリスリと別れを惜しむかのように顔を摺り寄せてから、差し出されている孫兵の手から腕へと移動していった。

やっと自分の元に来て嬉しいだろうなと八左ヱ門は孫兵の顔を見ると、腕から首へとジュンコを巻きつけていたが、視線はジュンコではなく、名前へと向けられていた。
その孫兵の視線の鋭さと言ったら半端ない。

踵を返して去って行く直前に、小さく「ジュンコだけじゃない。動物を生き物を愛せるのは僕です」と、聞こえた孫兵の言葉に頬が引き攣るのはしかたがないと思いながら、やっかいな事になんなきゃいいがと、未だ何も知らずに自分の犬と眠っている名前の今後を考えていた。



(END)
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