おまけ



「ん」
「なんですかコレ」

渡されたものをまるで怪しいものを見るかのように見つめている名前。
そんな姿に小さく口の端が引き攣るのを感じる三郎。

「見てわかるだろうが」
「がま口の小銭入れですか?」
「そうだ」
「・・・・・へぇ、和柄ってのがいいですね」
「まぁな」
「では、失礼します」
「って、返すな!」
「は?何でですか?」
「これは名前のだ」
「いえ、小銭入れは持っていないので、私のものではありませんが」
「そういった意味じゃない」
「では、どういう意味でしょう」
「だから、その、あれだよ・・・・・やるって言ってるんだよ」
「いりませんけど」
「・・・・・」
「いりませんけど?」
「なんでだよ」
「もらう理由が分かりません」
「そ、それは(気になったからとかじゃダメだし)」
「鉢屋さん、もしかして」
「っな、なんだよ!」
「賄賂ですか?友達にやましいことでもしましたか?それとも、友達に何かしてその尻拭いの手引きを頼まれるとか?いやですよ、面倒くさいじゃないですか。友達のことは自分で頑張ってください」
「違う!しかも、どうして全部友達絡みなんだよ!」
「え、違うんですか?」
「あたりまえだろうが、なんだその心底驚いた顔は!私をなんだと思っているんだ。あぁ、もう、これはそのあれだ。買ったものじゃないから、気を使うものではなくて、だな。雷蔵が欲しいと言ったから、試に練習用で作ったやつだ。もちろん本番の綺麗な出来は雷蔵に上げているが、練習用が余ったんだ。それに、年頃の女が小銭を直接ポケットに入れるなんてどうかと思ったし。名前もせめてこういうのに入れろ。これならポケットに入るから持ち運びもいいだろう。たとえ練習用であっても、捨てるなんて勿体無いと雷蔵が言ったから、有効活用だ、有効活用。わかったか?だから、ほら、お前のだ。捨てると私が雷蔵に怒られるからな」

ほぼノンストップで喋りきった三郎は、渡された小銭入れをもう一度見ている名前を恐る恐る見ていると目があって、つい背筋を伸ばしてしまった。

「これ鉢屋さんの手作りですか」
「そうだ。練習用だけどな」
「どうりで、左右のバランスが微妙に違いますもんね」
「・・・・・他にいう事があるだろう」
「他にですか?まぁ、そうですね。裏がないのならありがたく貰っておきます。で、そちらは?」
「名前の好きな方の形をやる。両方練習で作ったんだ」
「選べるんですか?」
「あぁ、どうせ余ものだしな」
「あれ?名前ちゃ〜ん!こんなところで何してるの?鉢屋君も」

声が聞こえてきた方を見ると、エレベーターから降りてきたのか、こちらに向かってくるのは逆隣の優作だった。

「わ、かわいいね。これ名前ちゃんの?」
「えぇ、今私のものになるところです」
「今?」
「今です」
「そうなんだぁ。いいなぁ」
「余っているみたいですよ?」
「へ?」
「は?」
「それ、両方余っているんですよね」
「あ、あぁ」
「そうなんだぁ、いいなぁ」
「えっと、い、要りますか?」
「え、もらっちゃっていいの?うわぁ嬉しいなぁ!柄が名前ちゃんお揃いだね」
「そうですね」
「・・・・・うっ!!そ、それでは、私はこれで」
「うん。鉢屋君ありがとう」
「ありがとうございます」
「いえ、失礼します」

帰って行った三郎を見送ると、優作は嬉しそうに名前に喋り続けていた。

「こんなの作っちゃうなんて、すごいね鉢屋君って」
「心配のしかたが親目線でしたけどね」
「名前ちゃん」
「なんですか?」
「今度コレ持って一緒にコンビニに行かない?」
「何でですか?」
「一緒っていうのが嬉しいからかな?へへっ」


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「三郎何してるの?」
「小銭入れを作っている」
「でも、僕は一つで十分だし、三郎の分もなかったっけ?あ、兵助たちの?」
「違う。あと、私のもあった・・・・・が、取られた」
「もう。素直にならないからでしょ」
「どういう意味だよ」
「スパって喋って、スパって渡しちゃえば、小松田さんに取られることなんてなかったんだよ。なのに長々と同じ事言ったりしてるから」
「ちょっ、雷蔵さん?何でそのことを?」
「何でって、聞こえていたよ?」
「うっそ!?」
「だって、三郎玄関開けっ放しだったんだもの。嫌でも聞こえちゃうよ」
「嫌でも?」
「うん。嫌でも。それに、僕の名前まで出したのに、結果あれだし」
「・・・・・」

なんだか、とても心がさみしく感じた三郎は、新たに作った小銭入れを持って、
豆腐を買って、兵助に慰めてもらおうかと本気で思ったのだった。



(END)
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