七夕の楽しみ方



氷室の前から逃亡して、盛り上がっている学生の方に向かって走っていった名前の変わりにナマエが説得しだした。
そんな光景を見ていた残りのメンバーは、自分達のところにやってきた名前へと詰め寄った。


「おい、あっちはいいのかよ」
『なんだよ。そんなに気になるなら向こうに行けよ。誰も止めないぞ鈴鹿』
「げっ。嫌に決まってるだろ」
「せやな。俺も自分から好き好んで先生の場所には行かれへんわ」
『だったら、守村や赤城のように黙って書けよ』


その言葉で、二人は真面目に何を書こうか悩んでいる事に気付いたが、そのほかの事にも姫条は気がついた。


「あれ、葉月は?」
『あっちで寝てる』
「起こさへんのか?」
『猶予はあと10分だけだと言ってある』
「あっそ」
「せやけど、何も喋らんともくもくと短冊へ願いを書くなんて暇ちゃう?」
「だな」
「それなら丁度いい。七夕に纏わった話をしてみたらどうだ?」
「「うぉっ!!」」
『もう書いたんですか?』
「こういった時の願い事など決まっているだろう」
『「「(ナマエーーー!なんで連れてきたーー!!)」」』


いつの間にかこちらの場所に来ていた氷室に姫条と鈴鹿は驚き、明らかにやり辛くなったこの空気に、連れてきたナマエを軽く恨む事しか出来なかった。


「でもさ、七夕行事もいいけど、星見えてないよ」
「赤城よく突っ込んだな。それは俺も気になっとったわ」
「だよな。星が見えてこその天の川だろ?」
「さすがに、星が見えていなければこの願い事の短冊も意味はないのかもしれませんね」
{私もさすがに、小雨も降ると言ったんだけど、名前が雨天決行って聞かなくて}
「ナマエさんも大変ですね」


赤城の言葉をキッカケに、今日の天気に不満の声を上げ始める残りのメンバー。
その言葉を聞いても未だに名前は自分の短冊に目線を向けてペンを持って、何を書こうか悩んでいた。


『別にいいんだよ。星が見えてなくても』
「なんや?やる事に意味があるとか言うんか?」
『そんなうすら寒い事は言わない』
「うすら寒いって、酷いな」
『さて、七夕の伝説は皆知ってるんだろ?』
「(俺のこと無視したな)」


そう呟くと、皆は軽く首を縦に振って、伝説を思い返していた。


「たしか、アレだろ?織姫と彦星が1年に1度会うっていう」
『そう。詳しく知ってる?』
「何やったっけ?それとなく知ってるけど、詳しくって言われたら困るわ」
「確か、織姫と彦星が結婚したけど、結婚後何もしない2人を怒って、1年に一度しか逢えなくしたって」
「そして、1年に一度だけできる天の川を渡って2人は逢えるというお話でしたよね」
「赤城も守村も知ってるんだ。俺そう言った話とか全然わからねーや」
「僕も曖昧ですけどね」


思い返すと、そんな簡単に言われている話しか出てこないみんな。
そんな中で、もしかしてと少し声に期待を込めたようにナマエは氷室へと向き直った。


{先生なら、詳しい話を知っているのでは?}
「いや、こういった幻想や、伝説など根拠の無い話など信じていないからな」
「ほんなら知らへんってことなんか?」
「・・・・・確か小説の一説は“天の河の東に織女有り、天帝の子なり。年々に機を動かす労役につき、雲錦の天衣を織り、容貌を整える暇なし。天帝その独居を憐れみて、河西の牽牛郎に嫁すことを許す。嫁してのち機織りを廃すれば、天帝怒りて、河東に帰る命をくだし、一年一度会うことを許す”と示されて、これが現在知られている話とほぼ同じ形だ」


「へ、へぇ。そうなんや(詳しすぎやし、少しムキになっとる気が)」
「よくわからなかったぞ」
「アホ。そんなん俺もや」


成績が言い訳ではない二人は、淡々と話した氷室の一説の意味を理解できなかったのか、苦笑いを氷室に向けながら適当に合わせ、こそこそ分からないと話していた。
そんな二人を見たからか、ナマエが氷室の言った一説を解説しだした。


{つまりね、“織姫は天帝の娘で、機織(はたおり)の上手な働き者の娘であったの。彦星は夏彦星と言われていてね、夏彦もまた働き者だった。だから、2人の結婚を認めたの。そして、めでたく夫婦となったが夫婦生活が楽しく、織姫は機を織らなくなり、夏彦は牛を追わなくなってしまってね。このため天帝は怒り、2人を天の川を隔てて引き離したが、年に1度、7月7日だけ会うことだけは許されていた”という話よ}
「なんで天の川が出てくるんだ?」
{それはね「夏彦星がわし座のアルタイルという星だから」}
「って、起きとったんかい」
「・・・・・さっき、起きた」
「さよか。で、アルタイルって言われても。なぁ?」
「あぁ。星とかわからねーし」
「夏の大三角形の1つ」
「それなら分かるぜ。場所は分かんねーけどな」
『まだ話はあるんだ。聞け』
{偉そうな態度が、なぜかむかつく}


なんとなく話を先に進められる雰囲気になったところで名前が、左手を前に出して静止をかけるかのような動作を取ったが、その動作にナマエはイラっとした。

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