お嬢様は甘いものがお好き







「ジャッカルーっ!!」



朝から大きな声が廊下に響く。



「…またかよ?」
「うん!」


そう言って名前が
俺より少し小さな手を出す。

その手に昨日買ったばかりの
飴を乗せてやると、
名前はにっこり笑った。


「ありがとー!ジャッカル大好き!」
「…あー、はいはい。分かったから早く行け。」
「あーい!バイバーイ!」



いつから恒例になったんだろう。
こうやって朝に名前が
俺にお菓子をもらいにくるのが。



最初はなんだったかな。
たしか、ブン太にお菓子をやってて…

それがたまたま名前の
欲しかったクッキーだったらしい。

物欲しそうにじー…っとこっちを見てくるから、
(本人は意識してなかったらしいが。)
お菓子の一つくらい別にケチるもんでもないし、
一ついるか?って聞いた。

それだけ。


まさか、その次の日に持ってたお菓子も
ずっと欲しかったお菓子だったとか、
そんな偶然あるかよ。


その次の日にはもう俺から
これ持ってきたけどいるか?って聞いた。
どうせ、くれって言うんだろうからな。



…あぁ、俺が原因か。



「おい、ジャッカル♪」
「ブン太か…なんだよ。」
「なんだよ、ってなんだよーぃ。冷てぇなぁ。」
「お前が "ジャッカル♪" っていう時は、たいてい良くないことが起こる前兆なんだよ。」
「失礼な!人を疫病神みたいに呼びやがって!」
「…んで、なんだよ。」


そーだ、そーだ、とブン太は
自分のズボンのポッケに手を突っ込んだ。


「ほら!」


そう言ってポケットから出てきたのは飴。


「…飴がどうした?」
「これをさ名前にやってきてくれよぃ!」 
「はあ?自分で行けばいいだろ?」
「いいから、いいから!実験してんだよい!」 


ブン太の思考回路はいつも
読み取るのに苦労するが、
今は、いつも以上に意味がわからない。


しかも、ブン太がお菓子をあげるだと?


明日は大嵐に間違いない。


「ほら、はやくー!渡して来いよぃ!」
「…はいはい、分かったから。」
「俺は後ろから見てるからな!」
「は?ついてくんのかよ?」
「あったりめーだ!実験だって言ったろぃ?」


もう勝手にしてくれ。


名前のクラスは隣の教室だから、
いつでもすぐに行ける距離。

クラスを覗いたが名前の姿はなかった。


「そっちじゃねーよい!こっち、こっち!」
「は?名前のクラスここだろ?」
「教室はそこだけど…。いいからこっちだって!」


もう本当に意味がわからない。

言われるがままにブン太についていった
その先は渡り廊下だった。


休み時間に渡り廊下はいつも結構人が居る。


なんだよ、ここ。
こんなところにいるわけないだろ…。


「おい、ブン太、ここは…「しっ!静かにしろぃっ」…ぉぅ。」


…静かにする意味あるか?
こんなに人が居るのに。


「ジャッカル、あそこ。」

 
つんつんとブン太が俺の肩をつついて、
そして壁に隠れながら向こうを指さした。


「…?」


つられて、俺も壁に隠れながら
ブン太の指さす方を見てみると
名前が向こうから歩いてきた。


名前がっていうか、
名前と他クラスの男子が。


おそらく、移動教室から帰ってきたんだろう。


「眠かったー…あの先生の授業分からなすぎ!」
「だよな。俺も、何言ってるか分かんねぇ。」
「アンタは寝てるからでしょ!こっちは真面目に一応受けてんの!」
「一応かよ。」
「うるさーい。あー、もうお腹もすいたし最悪…」
「飴ならあるぞ?ほら。」


そう言ってポケットから出したのは、
さっきブン太が俺に渡してきた飴と同じだった。


「あー…それ、嫌いな味だわ。」
「マジで?!俺、1番好きなのに!」
「食べれないこともないけど美味しくない。」
「お前の味覚は、かなり損してるぞ。」
「ほっといてくれるー?」


そこまで会話を聞いて我に返った。
なんか、俺らストーカーみたいだ。


「よし、ジャッカル!渡してこい!」
「…おう。って、は?!!」
「なんだよ。」
「いやいや、お前今の会話を聞いてたか?嫌いな味っつってただろ。」
「いいんだよ!むしろ好都合!」
「はぁ?嫌がらせじゃねーか!」
「違うって!もーいいから、早く渡してこいよぃ!」
「なーにしてるのー?」


ギャーギャー言い合いしてると、
いつの間にか隣に名前がいた。


「あ、名前…、いや何もないん「あのな、お前にお菓子持ってきてやったぜぃ!このジャッカルが!」…やっぱり、オレかよっ!」
「え、本当に?!」



パっと明るくなった名前に
少し罪悪感を感じながらも飴を差し出す。


「はい、これ…。」



………………………。



「わあっ!ありがとう!」

 

そう言って名前は
本当に嬉しそうに飴を受け取った。


「ジャッカルから持って来てくれるの初めてだね!」
「え、あぁ、そうだな。」




どういうことだ?

隣のブン太を見るとニヤニヤしているが
全く意味がわからない。 

さっき、嫌いな味だって言ってたよな?


「…それ、いるのか?」
「え?なんで?いるよ。くれるんじゃないの?」
「あげるけどよ…」
「?」
「さっきそれ嫌いな味って…言ってなかったか?」
「…?!!!」
「おいー、ジャッカルそれ聞くなよぃ。」


まだニヤニヤしているブン太と
いきなり耳まで真っ赤になった名前。

「ささささささっきの聞いてたの?!」
「…ああ。」
「いや…あのっ違うの!これは違う!その嫌いな味なんだけど…あぁうぅ…。本当に違うのよ?!ジャッカルだから貰ったとかそんなじゃなくて…っ!………あ。」
「…。」


もともと紅かった顔がさらに紅くなる。


「いやあああっ!ごめん!もー忘れてーっ!」


そう叫びながら名前は去っていった。
今まで見たことないような速さで。



横ではブン太が肩を震わせている。




「ぷっあははははははっ。名前焦りすぎだろぃ!」
「……。」
「なあ、ジャッカル見たか?!」
「……。」
「おい、ジャッカル?」
「……。」
「お前…顔赤いぞ…?」
「…っ、うるせぇ。」
「え、なんだよ?!えぇー…ジャッカルお前!」
「…うるさいな、教室戻るぞ。」


後ろでジャッカル、ジャッカルと呼ぶ
ブン太の声を無視して、教室にいそいだ。

右手で顔を隠しながら。




…だって、そんなのずるいだろ?

『ジャッカルだからとかそんなじゃなくて…っ』

とかそんな真っ赤になって言われたら、
さすがに俺だって気付くっつーの。



明日、どうしようか。
きっと俺の顔を見て逃げ出すんだろうな。


…そういえば、前に
大好物はチョコチップクッキーだとか
言っていたような気がする。


よし、明日はチョコチップクッキーを用意しよう。



そんで逃げ出されたら、
すぐに腕を掴んで、チョコチップクッキーと共に
俺の気持ちを伝えるんだ。



俺だって誰にでも
お菓子あげるわけじゃないだって。


お前だから毎日お菓子を用意してるだ、ってな。










∵あとがき
 テニス企画サイトあの子は似合う様に提出しました。

 執筆 2013.09.29



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