気付いてほしかった




「ここのxにさっきもとめた、解を代入して計算すると…」


数学の教師の解説を軽く聞き流しながら、
肩肘をついて窓の外を見る。


いつもであれば、数学の授業なんて
サボるか寝るかしているが、
今日はそういう訳にはいかない。


なぜなら、今、自分は柳生だから。


ペテンをより完璧に近づけるため、
俺と柳生は私生活でもよく入れ替わる。
基本、誰も気づかないけど、
最初の方はごくまれに柳あたりにバレることがあった。


今では誰も気づかないし、
俺らのペテンはさらに磨きがかかっている
と言っても過言ではないと思う。


外では自分のクラスが体育をしていた。
自分の姿をした柳生が、サッカーをしている。
していると言ってもほとんど端にいて動いてないけど。


俺っていつもそんなサボっとったっけ? 
次からはもう少しちゃんと授業うけよう。


なんて、考えていると
横の席の子に、シャーペンでつつかれた。


「なにか用ですか?」

 
今は柳生として話さなければ。

隣の席のこの子の名前は
たしか……苗字名前…じゃったか?

稀に柳生との会話に出てくる。


美化委員でもないのに、
いつも残って掃除をしてるとか、
教室の本の整理をよくしてるとか、
なんとも柳生の気に入りそうな女。



『外ばっかり見てるからさ。そんなに柳生くんのことが気になるの?』
「…ええ、まあ。」



……………。



………………え?





「柳生…?」 



コイツ今、柳生って言ったよな?



『うん。柳生くん外でサッカーしてるでしょ?…まあ、してないに等しいかもだけど。』
「あれは仁王くんでしょう。」



柳にもバレなかった変装が
こんな普通の女に見破られるわけない。

カマかけて、はかせようとしてるんか?


シラを切り続ければ折れるだろう。

そう決心したら、苗字は
小さく笑って、小声でこう言ってきた。


『ふふ、大丈夫。誰にも言わないから。あのね、私仁王くんと柳生くんが入れ替わってるのいつも知ってるの。この前は家庭科の時間かわってたでしょう?』


驚いた。
たしかにこの前、家庭科の時間に
入れ替わっていたのだから。

まさか、こんな他人にバレるとは。



「すごいな、おまんは。何で分かったんじゃ?」
『んー…なんでだろう?なんとなく分かるよ。』


   
そういった彼女の恥ずかしそうに、
でも、とても嬉しそうに俯いた笑顔が
しばらく頭から離れなかった。









































「ってわけなんじゃ。どうやら俺らのペテンは、苗字には通用しないらしい。」


部活が始まる前
お互いまだ変装したままで話しているから、
もし誰かが見ていたらかなり奇妙な光景だろう。


「そうですか…。苗字さんの観察力はなかなかあなどれませんね。」
「そんな感心してる場合じゃないじゃろ。ペテン見破られとるんよ?」
「まあまあ。彼女とテニスで戦うわけじゃないのですから。それに内通者がいるみたいで、なんだか少し面白くないですか?」


後ろの髪をイジりながらそうやって微笑まれた。

俺の顔で微笑まれたら、正直キモいんじゃけど。


まあ、でもたしかに
内通者と思えば多少は面白いかもしれん。


それからだった。

彼女のことが気になっていったのは。








それから、
柳生と入れ替わる回数は増えて、
苗字と話す機会もかなり増えた。

朝は挨拶するようになって、
呼び名も苗字から名前に変わり、
他愛もないことを話すようになった。



柳生の言っていた通り、
彼女はいつも教室の掃除をしたり、
文庫の整理をしていたり、
最近では朝早くに花壇の水やりをしていた。



「面倒くさくないんか?」


と聞いても、


『教室や本がキレイだと気持ちいいでしょ?それに朝は好きだし、お花も好き。だから面倒くさいことなんて全然ないよ。』


ってまた、
優しく笑うからもう何も言えなくなる。


学校にいても、クラブのときも、
家に帰っても、休みの日でも
自然と考えてしまうのはいつも名前のこと。


自分にもこんな感情があったということに驚く。










いつの間にか好きになってた。

彼女の行動、全てが愛しく思えるようになった。

話せただけで一日幸せだった。



いや、もう名前の隣にいられるだけで幸せだった。




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