『あなたに執行官の適正がでています』

「……あははっ……!ハハッ」

隔離施設で告げられたその言葉に、
思わず笑いがこぼれた。

いや、こんな状態で笑う以外に何をやれというのだろう。


あの人が壊そうとしていたこの世界。
それを……槙島さんが壊したかった世界を、守る人間としての適性が出ているなんて。


……随分と不条理で理不尽な世界だ。

涙が出るまで笑い続けていた私は、ようやくここで真正面を見る。
無機質な通告に、思わず昔出会った先生のことを思い出した。
……リンクするその面影を苦笑してから取り払う。


そして、軽く目元を拭いながらゆっくりと口角をあげた。
やってやろうじゃないか、腹が立つほどにうまく回るこの世界に。
私への挑戦状というのならば。

「……よろしくお願いしますね、監視官さん」


貴方が美しいといった人の魂の輝きを……今度は私が―――……。






―――……ガシャン!


まるで檻の中のような黒く重たい扉がゆっくりと開く、
開ききったその音に、閉じていた目を開けていく。


一歩踏み出せば、それは違う世界。
今までとも、ほんの少し前とも。

いくつもの目に見つめられながら、その世界への一歩を踏み出した。
……驚いたような視線に、一歩引いたような嫌悪感満載の視線。
味わったことのないようなそれが、なぜか異常に面白かった。


早々に始まった挨拶や説明を軽く交わし、漏れのない程度に聞き流す。

それが終わったと思ったら、私の上司となった人の指示がとぶ。
それに従わなければいけない立場の私はその女性のあとについていこうと、屋根のない空の下へと踏み出したその時、


……いつかみたあの白が目に映った。

そういえば、あなたと出会ったときも、こんな日だったよね。
寒くて、黒くて、……そして、この白がある日だった。



……ねぇ、聖護さん。
あなたの代わりなんて見つかりそうにないよ。

それもそっか、そこまで考えてから自嘲気味な笑みを浮かべる。
ぼんやりと歪んでいく世界で妙に鮮明に映った。


……当たり前だったよね、

あなたの代わり人なんてどこにもいないんだから。

どこかの遠い国のあったことも話したこともない赤の他人の人から見たら、
いくらでもかわりはいるだろう、とかだからどうした?って言いたくなるようなことかもしれない。



……でもね、あの人たちにとっても、私にとっても、

あなたはあなたにしかなれなくって、たった一人のかけがえのない人なんだよ。


そのことにあなたは最後、気付いていましたか――……?
――……そう目の前の白に向かって笑いながら問いかけた。


前方から聞こえた上司の声に、彼女はすぐ返事をし、その上司を追いかける。
こうすると決めたときの決意と覚悟を胸に秘めて。

その背中を見ながら白は揺らいで笑った。


じわりと、薄く濡れたそれは―――……。


彼女の涙か、彼の涙か―――……


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