たどり着いたのは宏大な自然が見下ろせるこの丘。
……こんなところもこの世界にはあったんだ。

ポタリポタリと血を滴り落とす槙島さんの姿、命辛々といってもいいほどの様子。
でも、そんな姿でも美しいと思ってしまうのは、彼の表情がそれと相反していたからか。

……その姿に自然と悟る。


こうなることを予想して予めいっていたことを思い出す。
それを確かめるように見てきた槙島さんの金の瞳を笑って見つめ返す。


こんな最期を迎えるなんて、あのときなんかは全然想像もつかなかったな。
……ううん、あなたとのこの出会いなんて言うのも知らなかった。

……もし、もし昔の、ずっと、昔の私だったら、
こんなのはありえもしなかったんだろうな。

いとも簡単に想像できるそれに笑みがこぼれる。


でも、

貴方の愛用のその剃刀で、
貴方のその手で、
貴方の愛せなかったこの世界で、
貴方が愛されて、そして愛されなかったこの世界で―――……

この命を終えることができるのなら……。

今、それ以上に幸せなことはないのかもしれないね。



美しい夕日に照らしだされた、幻想的なこの世界。
銀色のそれが赤く染まった。




一人では恐ろしく嫌な事でも、二人なら――――全然恐くないよ。

貴方が恐れていた孤独という存在、それが今となってはよく分かる。
もし、ひとりだったなら――……そう考えると恐ろしくってたまらないよね。


でも……違うよ、あなたはひとりじゃない。
邪魔かもしれないけど、私も一緒にずっとあなたのそばにいさせてください。


そんな私の心の声が届いたのかな、……って思うほど、

最後に見たあなたの顔は、滲んで、歪んでよく見えなかったけど、



それでも―――……すごく穏やかな表情で微笑んでいるように見えた。

それに……酷く安心しちゃったな。
嬉しかったよ、聖護さん、あなたのそんな表情が最後に見えて。





―――さようなら、この世界。
さようなら――――……。


……いつかまた、巡り合うことができますか?
――どうかまた、あなたと―――……


直後、青の花びらと白の羽と、―――そして、赤の鮮血が宙を舞った。


……ありがとう、聖護さん―――。ずっと……―――。



宏大な自然と大いなる愛で包まれたこの世界で、笑っていたのは、―――……一体、誰だったんだろうか


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