目が覚めると、大切な人の綺麗な寝顔が目の前にあった。 彼――イッキさんと共に暮らし初めて早いことでもう三ヶ月。 寝具を共にするようになったのも、それに近いだけの月日が流れている。
朝食を作らなくてはと未だ完全には目覚めきっていないまま起き上がろうとしたところで、ふと気付いた。
――イッキさんのワイシャツ……?
そう、私が身につけていたのは、いつもイッキさんが着ているワイシャツ一枚だけだったのである。 数秒の思考の後、瞬時に顔に熱が上ったのを感じた。
そうだ、昨日はバイトから帰ってきてすぐイッキさんに――
事の顛末を思い出してしまい、よりいっそう恥ずかしくなる。 すると、どうしようもなくなってしまっていた私を引き寄せる腕があった。
「っ…!!」
私がイッキさんのワイシャツを着ているということは、勿論彼は上半身裸な訳で。 細身の割に鍛えられた胸板に私は押し付けられてしまう。
「イ…イッキさん……!!」
「ん……」
欝すらと瞳が開き、ぼーとしたように私を見つめるイッキさんは、普段からは想像がつかないくらい可愛くて。 慌てていた感情すらも一瞬忘れてしまう程だった。
「んー……、おはよう…」
寝起きで微かに掠れた声と微笑みは、とてつもなく甘い。 それに堪えられなくて起き上がろうと身じろぎするが、イッキさんの腕が緩むことはない。
「待って…まだ離れていかないで」
先程よりしっかりとした声だが、しかしまだ甘い声音で耳元で囁かれる。 そんな声を出されたら、従わない訳にはいかなくなる。
「ん。ありがと」
ふいをつかれるように唇が重なる。 昨夜たくさんしたような深いものではなく、啄むような軽いキス。 それを幾度か続けた後、漸くイッキさんは私を抱いたまま起き上がった。
「あっ……」
掛け布団がずれ落ち、ワイシャツに隠れきらない足があらわになってしまう。 慌てて掛け布団を引き戻す。
「あー…、自分でやったにしろ、失敗したかも……」
イッキさんはボソッと呟いた。
「昨夜君の意識が飛んじゃったから僕のワイシャツを着せたんだ。そのままだったら風邪引きそうだし」
イッキさんの言葉に羞恥に襲われる。 顔を見られたくなくて、彼のぎゅっと抱き着く。 可愛いなぁと囁かれ、髪に口づけられる感触。
「でも失敗した。……色っぽくて、朝から抑えがきかない」
声のトーンが低くなったかと思うと、気付くとベッドに背中がついていた。 視界には、艶やかに微笑むイッキさん。 彼の細くて長い指が、私の頬を撫でる。
「君が欲しい…」
ずるい、ずるい、ずるい。 そんな愛しそうに触れないで。 そんな声で囁かないで。 そんな瞳で見つめないで。 そんなふうにされてしまうと、私は何も言えないの。 貴方が愛しくて、想いが止まらない――
「今日は休みだしバイトもないし。……飽きるほど、君を抱かせて…」
『できるものなら1日中一緒にいて、抱きしめて、キスして、飽きるほど抱きたいんだよ!』 まだ記憶が完全に戻っていなかった時にイッキさんに言われた言葉を思い出す。
私は頬に触れていたイッキさんの手に、自分のものを重ねた。
彼のワイシャツを借りました
(彼の全てが愛おしい)
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