「ただいまー」

玄関から響いた声に、私はお味噌汁の火を止めて、急いでそちらに向かった。

「お帰り、シン!丁度ごはんを作り終えたところだよ」

パタパタとスリッパを鳴らして玄関に向かうのも、もういつものこと。

「お前、またお袋に呼び出されたの?」

私がいることはシンにだって習慣付いたことのはずなのに、シンは毎回この台詞を口にする。
その反応に最初のうちは拗ねたりしていたのだが、最近ではこれが照れ隠しってことはわかってるから、嬉しくて笑ってしまう。

「今日はおばさんが夜勤で帰ってこれないから、シンの夕食作って欲しいって頼まれたの」

私の言葉に、靴を脱いでいた姿勢でシンが動きを止めた。

「お袋……、帰ってこないの?」

恐る恐るといったように問い掛けてくる。

「うん、そうだけど…」

「年頃の、しかも付き合ってる男女をこんな夜中に二人きりにさせてどうすんだよ…」

ぼそりとシンが何かを呟いたが、その内容は私には届かなかった。

「夕飯は?」

改めて靴を脱いで、リビングへ向かうシンの後ろを着いていく。

「今日はね、オムライス!」

出来立てのオムライスをフライパンからお皿に乗せ、ケチャップを手に取る。
そのときふっと思い付くことがあり、恥ずかしいながらもそれを実行にうつす。

「は、はい!シン!!」

テーブルについたシンの目の前にお皿を置く。

「なっ…!!」

見開かれる目。
彼の視線の先は、私がケチャップで描いたハートマーク。

「……お前さ、こんなときに可愛いことすんのやめてくんない?」

「こ、こんなとき……?」

言われてる意味が理解できず、首をかしげる。

「あー、もう、お前本当反則」

腕を引かれ、ギュッと強く抱き締められた。

「あのことがあってから、俺も自分の行動を見直した。だから、もう昔みたいに無理に迫ったりはしない。……でも、こんな可愛いことされたら理性が揺らぐ……」

キスしていい?
問われた言葉に返答する前に、ゆっくりと唇が近付く。
一瞬重なった唇は、離れてもすぐにまた塞がれる。
啄むような口付けを幾度か繰り返し、シンは私の髪を撫でながらキスを深いものへと変えていく。

怖く、ない……。

慣れないキスに戸惑いはしても、もう怖いなんて思わない。
シンは優しくしてくれる。

「はぁ……」

長いキスが終わった頃には、私はシンに体を全て預ける体勢になっていた。

「……しん…」

シンの胸元に手を添えて体を支え、彼の顔を見上げる。

「っ…!!」

シンはギュッと私を抱き締めた。

「好きだ。大事にしたいと思ってる。だから、今はこのまま大人しく抱き締められてて」

シンの意図することはわからない。
でも、大好きな人の温もりに包まれて嫌な女の子なんていない。
私も同じように、強くシンの体を抱き締めた。





ハートは君のもの

(この気持ちを捧げたいのは一人だけ)










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