夏休みのある日、部活が終わりの享を迎えに学校へ向かった。
私服で校内へ入るのは少しドキドキしたが、校門前の守衛さんも普通に挨拶をしてくれただけだったので安心する。
グラウンドへ行けば丁度享も部活を終わらせた所なようで、一緒に寮へ行った。
シャワー浴びて着替えてくると告げた彼を見送って、玄関で寮監のおばちゃんと世間話に花を咲かせる。おばちゃんは気さくで優しくて面白い人なので話すのは私のちょっとした楽しみでもある。

「ほんと、飛鳥くんみたいないい男を捕まえるなんてやるわね〜」

おばちゃんはどうやら享を気に入っているらしい。息子にしたいぐらいだわなんてよく言っている。
ちなみに寮生ではない鬼丸君のことも好きみたいだ。以前たまたま享と鬼丸君と寮へ行ったら、今までないテンションで話しかけにているのを見た。

「私には勿体ないくらい素敵な人です」

「オレにとっても勿体ないくらい素敵な彼女だよ」

突然会話に乱入した声に振り向けば、練習着から私服へと着替えた享が立っていた。
享は基本的に制服か練習着しか着ていないくせに、服のセンスがいい。今もシックにまとめていて、なんだか大学生と言っても違和感がないほど大人っぽい。

「あらあら、ご馳走さまです」

おばちゃんがニヤニヤと笑うのを見て、女性はやっぱりいつまでたっても色恋事は大好きなんだなぁなんて頭の片隅で思った。

「ちょっと享、まだ髪乾ききってないじゃない」

「いいよ。軽くドライヤーかけたし夏だからすぐ乾くよ」

「ならいいけど……」

「じゃ、オレ今日少し遅くなりますね」

おばちゃんへと告げれば、いってらっしゃいとにこやかに手を振られた。
寮を出てすぐ握られた手は、シャワーを浴びたばかりだからかとても温かい。

「夏なのに相変わらず沙紀は手が冷たいな」

「あ、ごめん」

寮内のクーラによって冷やされた手を慌てて離そうとしたが、逆に強く握り返された。更に指を絡められ、俗にいう恋人繋ぎをされる。付き合いが長いから当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、この流れがスマートだ。

「離さないでいいよ。むしろ冷たくて気持ちいい。…あ、でもオレの手が熱いなら離してもいいよ」

狡いなぁと思う。私が離さないのを絶対分かっててやっている。
現に、握られた手の力は緩みさえしない。

「私にも暖かくて丁度いい。…そもそも離す気なんてないくせに」

享は笑っただけだった。
いつもの大人びたものとは違い、少し子供っぽい笑顔。あまり見かけることのないその顔をされてしまうと、これ以上言葉は続けられなくなってしまう。
話さなくとも気まずいどころか居心地のよささえ覚えることに、嬉しさと愛しさを感じた。
冷えた手は享の温もりによって少しずつ元の温度に戻ろうとしている。
それにしても、とふいに享は前置きを入れた。

「沙紀は昔から手が冷たいよな」

「冷え性だしね」

幼い頃――それこそ外で一緒に遊んでいた頃などは、よく享の首に冷たい手をくっつけて遊んだものだ。

「そういえば冬は冷たいって言葉を通り越してたような…」

今までのことを思い出しているのだろう、享の表情が苦笑いに変わる。
女性に多いと言われる冷え性だが、そのなかでも私の症状は酷いほうだと思う。
冬は手袋とカイロは手放せない。

「じゃ、これからは冬は手繋がない?」

「まさか。冬もオレが暖めるよ」

どんなに寒く手が凍えても、享と手を繋ぐ時は必ず手袋は付けていない。
繋いでいない手はそのまま手袋に包まれているが、繋いだ手は必ず素肌で触れ合っているのは暗黙の了解だった。
私の手を包み込む享の温もりが、手袋よりもカイロよりも暖めてくれるのは確かなのだ。
そんなことを思っていたら享を好きだという気持ちがより強くなってきて、私はいつもよりもほんの少しだけ、握った手に力を込めた。





二人でいれば冬でもアツい





出典:DROOM








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