「慎司くん、これオーブン入れちゃうよ?」

「あ、お願いします」

私と慎司くんは今、台所で動き回っている。
今日は十月三十一日、ハロウィン。
イベント事の好きそうな真弘先輩あたりがお菓子をもらいにやってきそうなので、慎司くんと二人でカボチャケーキを作っているのだ。
真弘先輩が来るなら守護者全員が集まるのではないかと思い、少し大きめに作っている。
それにしても……、

「慎司くん本当にお料理上手だよね…。私なんかより全然上手……」

無駄なくテキパキと作業をこなしていく姿を見ていると、私は女としてどうなのだろう、これ……と思わず考えてしまう。

「そんなことないです!珠紀さんのほうが上手ですし、僕の知らない料理もいっぱい知ってるじゃないですか……!」

慎司くんはそう言ってくれるけど、先に出来上がったケーキに生クリームで綺麗にデコレーションしてる姿で言われても説得力はない。

「…よし、できました!」

慎司くんが出来上がったケーキを私に見せてくれる。

「すごい…!!」

そこにはお店で買ったようなケーキがあった。
…やっぱり慎司くんのほうが私より料理上手い……。
達成感を含んだ笑顔を見つめていると、あることに気付く。

「……あ、慎司くん、クリームついてるよ」

慎司くんの頬についたクリームを私は拭う。
そういえば前にもご飯を口元につけてたのとってあげたなぁ、と懐かしく思っていると、慎司くんは一瞬キョトンとした後に、私の手を取った。

「どうしたの……っ!?」

慎司くんはクリームのついた私の指を舌で舐めとったのだ。
突然のことに思わず手を引く。

「な……」

「あっ……」

された方よりもした方の人間が自分のしたことに驚いたようだった。目を見開き、そして次の瞬間、ボンッと音がたちそうな程に真っ赤に染まった。

「すすすすみません!!……体が勝手に…!!」

あわあわとする慎司くんの手が、生クリームの入ったボールに入っていたヘラへぶつかってしまった。
ヘラから生クリームが飛び、慎司くんの頬に再びクリームがついてしまう。
その様子を見ていると、なんだかこちらに余裕が生まれてくる。

「ふふっ…。そんなに慌てなくていいのに…」

そして私は慎司へと顔を寄せ、今度はそれを先程の慎司くんのように舌で舐めとった。

「お返し、だよ」

けれども流石にこれは少し大胆すぎたような気がする。恥ずかしくて下を向いてしまう。
だから、

「……珠紀さん…」

慎司くんの声が少し低くなったことに気づかなくて。
怖ず怖ずと顔を上げた途端に唇を奪われた。

「…僕だって男ですから…、その……」

慎司くんは最後まで言わず、再び私の唇を塞ぐ。
私はギュッと慎司くんの服を掴んだ。





決まり文句など必要ない


「おーい、珠紀、慎司、Trick or……」

「ま…真弘先輩!?」

「い、いつのまに…!?」

「……どうした真弘、驚かすとか言ってこっそり入って来たのにお前が驚いててどうする?」

「……こ、こいつら……」

「こいつらが何です、真弘先輩?」

「エ……エ……」

「エ?何です、鴉取くん。はっきり言ってください」

「エ…、エロいキスしてやがったんだよっっ…!!」

「……そうですか、じゃぁまた後で来ましょうか」

「だな」

「行くぞ、真弘」

「お…おい!?いいのか!?き、教育上良くねぇぞ…!?」

「はいはい、後輩に先越されて悔しいのは分かりましたから。このままいても仕方ないんで行きますよ」










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