俺が大学進学のために、十八年過ごしたこの村を出るのが、あと三日と迫った今日。 荷物も大方片付け終えたので、俺は珠紀の元に会いにきていた。
戸を開けて家の中に入り、いつものように居間に向かう。 やはり珠紀はそこにいた。 ただいつもと違うのは、彼女が眠りについていたことだった。 知らず知らずのうちに俺は穏やかな笑みを浮かべていた。
…あぁ、愛おしい。
眠る珠紀に近付き、顔にかかっていた髪の毛をはらってやったところで、俺の手は止まった。 珠紀の顔が涙で濡れていたからだ。 想定外のことでどうしようもできない俺の手に、珠紀は頬を擦り寄せた。
「……ゆ…いち…せんばい」
珠紀の目からまた一粒涙が流れ落ちた。 俺を思って泣いているのか……?
「珠紀……」
空いた手で彼女の涙を拭う。 寂しい思いをさせていたことを、そしてこれからもさせることは分かっていた。 それは俺も思っていることだったから。 俺はそっと珠紀の瞼に口づけた。
「…ん……」
瞼が震え、焦点の定まらぬ視線が俺を捉える。
「ゆういち、せんぱい……?」
まだ寝ぼけているのだろう。珠紀は俺の頬に手を差し延べる。 俺はその手に自分のものを重ねた。
「……っ!?…祐一先輩!?」
ようやく覚醒した珠紀が驚いて手を引っ込めようとするが、俺はその手を離さない。
「…これからも寂しい思いをさせると思う」
唐突な言葉に珠紀が不思議そうに首を傾けると、先程俺が口づけた側と反対の瞼から涙が流れ落ちた。
「あ……」
それでようやく珠紀は自分が泣いていたことに気付き、俺の唐突な台詞の訳を悟ったようだった。
「だが、俺の知らないで泣かないでくれ……」
握っていた腕を引き、珠紀を起こしてそのままギュッと強く抱きしめる。
「離れていても、お前を思う気持ちは変わらない。いつもお前のことを考えてる。だから、寂しければ電話をして欲しいし、俺もする。我慢できなければ言ってほしい。俺が会いに来る」
「…っ……祐一先輩…!!」
俺と同じくらい強く抱きしめてくれる珠紀に、余計愛しさが込み上げる。
「好きだ、珠紀…」
抱いた手を少し緩め、珠紀の顔を仰向かせる。 未だに微かに瞼に残る涙をキスで拭い、そしてそのまま、深く吐息を重ね合わせた。
泣くのは俺の知るところにしてくれ
(でないと、お前の涙を拭う術がないだろう?)
―― ほのか様よりリク頂きました、祐一先輩で切甘
祐一先輩を最近書いてなかったので、キャラが迷子になりました…… ほのか様、こんな感じで大丈夫でしょうか……? ご不満等ありましたら遠慮なく言ってください また、私の至らなさから、リクエスト受理までに手間をかけさせてしまい、申し訳ありませんでした
今回はリクエストありがとうございました!
|
|