「随分経ったと思うの」
「は?」
自習室でルルの勉強に付き合っていたら、ふいに彼女がそんな言葉を漏らした。 先程からペンが進んでいないと思っていたら、どうやら考え事をしていたらしい。 そんな彼女に思わずため息が漏れる。
「何がです?勉強しないなら僕はもう部屋に戻りますよ?」
魔道書を持って立ち上がると、ルルは慌てたように僕のローブを掴んだ。
「待って、待って!」
「はぁ…。いったい何が言いたかったんですか、あなたは」
どうせたいしたことではないのだろうと思っていたら、ルルはとんでもない爆弾を投下してき。
「えっと……、エストが『好き』って言ってくれてからもう随分経ったと思うの。だから――」
「なっ!?」
予想外の返答に、思わず声がでてしまった。 そして、『だから――』の後に続く言葉に気付き、不覚にも頬に熱が上る。
「…し、知りません!」
動揺が声に現れてしまったことに、内心で悪態をつく。 ふと視線を逸らすと、いくつもの目が自分たちに向いていることに気付いた。 そう、ここは自習室。 こんなところであのような会話をしては、注目を受けるのも当然と言える。 僕は慌ててルルの勉強道具を片付け、戸惑いを浮かべる彼女の手を引き自習室を出た。
「エスト!?いったいどうしたって言うの……!?」
湖のほとりに着くと、ルルは僕の行動が理解できないらしく声をあげた。 ここまで周りに頓着がないのは流石に困る。
「……まったく、あなたって人は……」
もっと周りに目を向けるべきです、と言おうとして、やめた。 言って聞くような人ならとっくに直っているはずだ。 ルルは途中で言葉を止めた僕に不思議そうにしていたが、とくに追求することもせず、突然僕の目の前に顔を寄せた。
「な…!?」
「ねぇ、言って!!」
服をギュッと掴まれる。 僕は近すぎる彼女の顔から自分の顔を逸らす。
「…僕には随分経ったようには感じません…」
苦し紛れの言い訳を紡ぐ。
「私としては随分経ったし、毎日でも言って欲しいの!!」
ルルは以前と同じように僕の顔を無理矢理自分の方へ向けた。 息がかかりそうな程の距離。
「エストの愛が足りない!!私は毎日エストに好きって言ってるのに……。私のほうが好きって気持ちが大きすぎてる……」
言葉の途中から覇気がなくなっていき、俯いていく。
ルルが思っているより僕は彼女を好いているし、きっとルルが僕を思ってくれるより僕が彼女を思うほうが大きい。 今まで僕にここまで関わってくる人なんていなかった。 真っ直ぐ気持ちを伝えてくれる人なんていなかった。 こんなに僕の心を惑わせる人なんていなかった。 僕の気持ちは、好きなんて言葉じゃ言い表せない。
僕は片手をルルの頭に回し、もう片方の手で彼女の顎を掬った。 そして言葉を発せられようとした瞬間にそれを塞ぐように口づけた。 突然の口づけに、彼女は驚きで逃げ腰になる。
しかし僕の片手はルルの頭を固定しており、顎にあてていた手は彼女の腰へと移動させているのでルルは完全に僕の腕の中。 しばらくして、崩れ落ちそうになる彼女の腰を支えながら地面へと座る。 その間も口づけは止めない。 ようやく唇を離した時には、既にルルの目は潤み、息は乱れていた。
「エ……スト」
「愛してますよ、ルル」
耳元で囁けば、ルルは一瞬驚いた表情を見せたのちにふわりと幸せそうに笑った。
「…私も……」
可愛らしいキスが贈られる。 唇が離れ、僕らは顔を見合わせて笑う。 そしてもう一度、どちらからともなく唇を重ねた。
好きよりも
もっともっと愛してる。
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