先日、僕のちょっとした失言からルルを怒らせてしまった。
流石に自分に非があると思ったので直ぐに彼女に謝罪した。
するとルルは、いつもの笑顔で――もう怒っていないようだ――こう言った。

「一つだけお願いきいてほしいの!今週末、予定空けておいてね」





そして、今日、約束の週末。
制服姿のルルは待ち合わせをしていたホールに現れると、すぐに僕の手を握ってスキップでもしそうな勢いで歩きだした。

「ちょっと、ルル!何処へ行くんです!?」

何処へ行くかなんて、本当は察していたのだが、勘違いであってほしいという願いから思わず尋ねた。
彼女はにっこりと笑う。

「もちろん、ラティウムの街よ!」

……あぁ、やっぱり。
外出届けを提出しておき、尚且つ今日制服で来たことに間違いはなかったらしい。
人混み嫌いな僕は、めったにラティウムに行くことはない。
ルルと共に出かけたのなど、片手の指で足りる程度――と言うか、彼女に誘われて魔法具を買いにセールに行った以外ない。
前々から誘われていたのだが、僕は頑なに断り続けていた。
そのため、不本意ながら今回のことは最終的には彼女の望む方向へ進んでしまったようだ。





久々にやってきたラティウムは相変わらず人が多く、こんな人混みの中にわざわざ好んで来たがる人の気持ちなど、誰かの口癖ではないがさっぱり意味がわからない。
そんな僕とは逆に、ルルはあちこちを眺めながら僕の手を引いてラティウムの街中を進んで行く。

「ちょっと、ルル、何処へ行くつもりです!?」

繋がれていた手を少し自分の方へ引くと、ようやく彼女は足を止めた。

「別に何処とは決めてないわ。気になったお店を見ようと思って。だからエストも気になったお店があったら遠慮なく言ってね。……あ、お昼はカフェで食べましょうね!」

思わずため息がでた。
無計画にも程がある。
しかしだからと言って、今日の僕に拒否権や発言権があるわけはないので、何も言わないでおく。
約束をした時点で覚悟はしていた。

それからルルは、僕をいろんな店に連れ回した。
雑貨屋に洋服屋……言い出したらキリがない。
そして、もうじきお昼時でそろそろカフェへ向かおうという時だった。

「…わぁ、可愛い!!」

ルルは路上でやっいるアクセサリー屋に駆け寄った。

「いらっしゃい、お嬢さん」

店主の女性がルルに微笑みかける。

「こんにちは!とっても可愛いですね!」

ルルの言葉にありがとうと返し、店主は話しを続けた。

「ここにあるものは全部一点もの。貴女が気に入るものはあるかしら?」

ルルはぐるりと品物を一通り眺める。
僕も隣で同じように眺めていると、一つの指輪が目に入った。

「これ素敵だわ!!」

ルルも同じものに目を付けたようだ。
それは彼女の持つ杖と同じ、クラウンの形をした銀の指輪。
ルルとても似合うであろう。
彼女はそれを手に取り店主に値段を確認する。
良心的な値段だった。

「これください」

「え……?」

ルルが言おうとしたであろう言葉を僕が先に言う。
驚く彼女に気付かないふりをして、僕は店主に料金を払った。

「そうね。こんな可愛い彼女だもの、印の一つでもつけとおかなくちゃ安心できないものね」

からかうような口調の店主を無視して、僕は今だ驚いているルルの手を引いて店を離れる。

「忘れ物よ、坊や」

坊やという呼び方は気に入らないが、一応振り返れば、店主は鞄の中から何かを取り出して僕に向けて放った。

「それ、セットなのよ」

手の中には先程買った指輪と形が微妙に違ったものが一つ。
思わず店主を見る。

「貴方もそんな綺麗な顔してるんだもの、きっと彼女も貴方と同じ気持ちのはずよ」

言葉終わりにウインクを一つ。
そして店主は満足したのか視線を僕から道を歩く人々へと移した。

「あの……エスト……」

ルルの声にハッとして振り向く。

「これ…、その……」

「……あなたにあげます」

僕はルルの手から指輪を取ると、彼女の左手の薬指にそれをはめた。
…あぁ、こんなの僕のキャラじゃない。
だけど、

「…ありがとう、エスト!!」

自分の指にはめられた指輪を見て、ルルは本当に嬉しそうに笑った。
この笑顔が見れたなら、慣れないことをしたのも報われる気がする。

「エストもそれ、つけてくれる…?」

期待に満ちた顔。
恥ずかしいという理由もあるが、実際問題僕はこの手袋があるのでつけられないし、手袋を外すつもりもない。
しかし、彼女をがっかりさせるのも本意ではない。
そんな僕の感情が伝わったのだろうか、ルルは僕の手袋に視線をやり、一瞬考えるそぶりを見せたが、すぐに笑った。

「指につけられなくても、ネックレスとかにすればいいと思うの!駄目…?」

そんな顔されたら断れるわけない。
そもそも恥ずかしいとは思っても嫌だなんて感情は浮かんでなどこなかったのだから。
こんなことを思うなんて、我ながら随分と丸くなったものだ。

「わかりましたよ」

「嬉しいわ、エスト!!じゃぁ、お昼食べ終わったらさっそくチェーンを探しに行きましょう!!」

「っ!?……ちょっとルル!?」

僕の腕に手を回し、幸せそうにルルは僕を引っ張る。
呆れながらも、こんなところも可愛いな、なんて思ってしまう僕はやはりどうかしているかもしれない。





束縛の証を君に

あぁ、もう。やっぱりあなたには敵わない。










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