あぁ、喉が渇く――
ルルと出会って、約一年と半年が過ぎた。 つまり、あの最終試験から一年程の月日が経った。 僕の隣で彼女が笑っていてくれることに、慣れと安心を感じ取るようになったはずなのだが、最近何故か落ち着かなくなる。 例えば、握った手が小さいだとか、身長が自分より少し低い位置になったとか、どこからとなく香る自分にはない甘い香だとか、とにかく自分との違いを見つけては、落ち着かなくなる。 なんとなく何かを渇望するような、今まで感じたことのない感覚が僕を襲う。
そう、今も――
今年もまた流れ星を拾いに行きましょう! 昨年同様にルルに誘われ、夜中に湖のほとりで空を見上げる。 僕にピッタリとくっついて座る彼女からは甘い香。
「エスト……?」
視線に気付いたルルが、戸惑いがちに僕を見つめた。
「……ルル、あなた香水か何かつけてますか…?」
「え…?つけてないけど……?」
何か匂いする?と彼女は自分の服の匂いを嗅ぐ。
「…別に何の匂いもしないと思うんだけど……」
「っ!?」
ほら、と言って僕に近付いたルルに、あぁ、まただ、喉が渇く。
「匂いする、エスっ!?」
僕の顔を覗き込んだ彼女を抱きしめて口づけた。 自分らしくないなんてどこか他人事のように頭の隅で考える。 ルルに口づけ、彼女の唇から微かに漏れる声を聞く度に、喉の渇きがなくなっていくような感じがする。 唇を離すと、目の前には真っ赤な顔で瞳を潤ませ、息を乱した愛しい人の姿。 彼女からは、先程以上に甘い香が醸し出されている。
…あぁ、成る程。 ルルからする甘い香は、男を――僕を惑わす甘い色香。 そしてその香に惑わされ、彼女を求める僕。 僕が渇望していたのは、彼女自身だったのだ。 僕にもこんな感情があったなんて……。いや、ルルと出会ったから出てきたのだろう。 自嘲しながらも、気付いてしまったこの感情から抗う術を僕は知らない。――が、彼女の嫌がることはしたくないので何とかしてできる限りは抗ってみようではないか。
「エ…、エス…ト……」
そんな僕の葛藤を知らずに、ルルは僕にもたれかかってくる。 あぁ、愛しいと喉が鳴る。 理性が負け、本能が勝った。いや、最初からどちらが勝つかなんてわかりきっていた。 僕は再び彼女に口づけると、そのまま彼女を柔らかな草の上に押し倒した。
「あなたが欲しい、ルル」
普段より幾分低い声で囁くと、彼女は何も言わなかった。 ただ、微かに震える腕が、僕の背にそっとまわされた。
渇望
(この渇きを癒すのは、あなたしかいない)
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