闇の中のミルス・クレアでルルを抱きしめた時、その体温(ぬくもり)を身体に刻みつけたことで、ずっとこの闇の中で一人生きていけると思ってた。
だけどあの時に比べ、今の自分は我が儘になったものだ。 今ではもう、たった一瞬の温もりでは満足できないのだから。
休日の今日、ルルを誘って湖のほとりにやってきた。 別に何をする訳ではないのだが、ただ彼女と一緒にいたいと思った。
「ねぇ、エスト、そろそろご飯にしましょう?」
今朝出合い頭に「プーペさんにお昼ご飯作ってもらったの!」と言って見せたバスケットをルルは取り出す。 正直僕は食事に執着はない。だが、彼女は逆だ。 嬉しそうな顔を見せられてしまえば、僕が断る理由なんてなくなってしまう。
「大丈夫、ちゃんとエストの好きな塩を振っただけのサラダもあるわ!!」
と鼻唄を歌いだしそいな感じでバスケットを開けるルル。 こんな何気ない日常が僕には幸せなんて、あなたは思いもしないだろう。
「わぁ、おいしそう!!」
バスケットの中身を見て、ルルは歓喜の声をあげる。 中には、様々な具の入ったサンドイッチ、おかず、そして多分僕用であろうサラダ。
「いただきます!」とルルはさっそく食事に手を付けはじめた。 僕もサラダに手を伸ばす。
「……うん!やっぱりおいしいわ!!エストも食べればいいのに……」
ルルがサンドイッチを一つ僕に差し出した。
「いえ、僕はサラダで十分です」
「でも、少しくらい食べたほうがいいと思うの!」
さらにサンドイッチを突き出してきたので、僕は断りを入れようとルルの顔を見る。 そして僕は、後の彼女の話によると、相当綺麗な笑顔で笑ったらしい。
「エ…、エスト……?」
「……そうですね、じゃぁ、少しだけ頂きます」
僕はルルがサンドイッチを差し出してきた手を握り、そして、サンドイッチを食すのではなく、彼女の口元を舐めた。 ルルの口元についていた、サンドイッチの具を。
「エエエエエスト!?」
「エが多いですよ、ルル。……それにしても、やっぱり僕はサラダだけで結構ですね。それはあなたが食べてください」
「だ、だからって私の口元を舌で……!!」
「嫌でしたか?」
ルルがこのあとなんと答えるかなんてわかりきっている。 そして彼女は恥ずかしそうにサンドイッチをかじりながら、僕が思ったそのままの言葉を口にした。
「嫌じゃないけど恥ずかしいの!!」
頬どころか耳まで真っ赤に染まる姿が可愛くて、愛しくて。 だけど、こんな一瞬の触れ合いでは物足りなくて。 ……あぁ、僕も欲張りになったな…、と思ったが、思うがままに再びルルの手をとった。
「エスト!?」
驚く彼女の唇を、自分のもので塞ぐ。 跳ねた身体を、空いたもう一つの手で抱き寄せて更に二人の距離を縮めた。 ルルが苦しそうに僕の胸を叩くので、唇を少しだけ離して、
「…エス…っ…」
僕の名を呼ぼうとした唇を再び塞ぐ。 それを幾度か続けるうちに、いつのまにかルルの腕が僕の背に回されており、僕は掴んでいた彼女の手を離し、更に強く抱きしめた。
触れ合いと温もり
一度知ってしまうと、もっともっとと求めてしまう。 独りを望んだ僕がこんなことを思うなんて。 僕はなんて愚かな人間になったことだろう。
だが、そんな自分に悪い気はしなかった。
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