「ルル……?」
突然肩にかかった重みに視線を魔導書から移すと、ルルが僕の肩によりかかりすやすやと寝息をたてていた。
休日の今日。 何をしようということもなく、ただ何となく二人で湖のほとりにやってきた。 木の幹によりかかり、僕は魔道書を広げ、彼女は珍しく静かにただぼーっと湖を見つめていた。 しかし、この暖かな陽気に眠気を誘われたのだろう。 ルルは気持ちよさそうに眠っている。
なんとなく、ふわふわとした桃色の髪にそっと触れてみた。 想像していたよりも柔らかく指通りが良い。 幾度か梳いていると、ん…、とルルは身じろぎながら声を漏らした。 起こしてしまったのかと少し様子を見るが、どうやら大丈夫そうだ。
「まったく、あなたって人は……」
彼女と出会ってから口癖のようになってしまった言葉を呟く。 流石に少し無防備すぎではないだろうか。 初めて彼女に会ったときも、ここで一人眠りについていたのを思い出す。 年頃の女性がこのようではいけいだろうと最近特に思う。 それに――
「……こんな無防備な寝顔を曝すのは、僕の前だけにしてほしいものです」
ルルが起きていたのなら絶対に言えない本音を呟いたあと、僕の口から欠伸がでた。 不本意ながら、だんだん彼女に似てきてしまったようだ…。 ……まぁ、多少はいいか、なんて以前の自分なら絶対に言わなかったであろうことを心の中で思う。 変化していくのが少し怖くもあるが、彼女に染められていく自分は嫌いではない。
魔道書を閉じ、腕に抱える。 片手には魔道書、空いた片手は、ルルの手にそっと重ねた。
「おやすみなさい、よい夢を」
目を閉じると、あっという間に眠りの世界へ誘われていった。
安らかな日常
(こんな日常も悪くないと思うんだ)
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