忘れることなどできないものとなった最終試験から、早いことでもう二週間が過ぎた。
無事合格できた私は、今まで通りこのミルス・クレアで勉強を続けている。
ただ、変わったことと言えば、大好きな人――エストと過ごす時間が増えたこと。

そして今日も、私の隣にはエストがいる。

「……何ニヤニヤしてるんです?」

呆れたように吐かれため息。
でも、そんなこと気になんてならない。
だって、

「大好きなエストと一緒にいれて幸せなんだもん!」

「…なっ、…ここは廊下ですよ!?」

「思ったことは言葉にしないときちんと伝わらないでしょ?」

「周りの目を気にしてください!」

「ねぇ、エストは?」

「人の話聞いてますか!?」

「あ、エスト!」

ずんずんと前を歩いて行ってしまう彼を急いで追いかける。

「待って、エスト!」

エストのローブを掴むが、止まってくれない。
けれども、少しだけ見えたエストの頬が赤く染まっていたのに気づいてしまった。
それを見ただけで私は笑顔になれる。もっともっとエストを大好きになれる。
属性だけでなく、きっと私の心をもエストは同時に染め上げたのだと深く深く実感しながら大好きな人の背を追いかけた。






漸くエストが足を止めたのは、湖のほとりに着いてからだった。
初めて会ったのも、泣いていた私が落ち着くまで側にいてくれたのも、私を好きだって言ってくれたのも、全部がここだったから、私にとっては深く思い入れのある場所だ。

「エスト!!」

「うわっ!?」

前と同じように後ろから首元に手を回し、エストに抱き着く。

「好き、好き。だーい好きよ、エスト!」

「なっ…」

先程よりももっと赤くなるエストが可愛くて、愛しくて。

「大好き!」

「…まったく、あなたって人は――」

エストが私の手に自分の手を重ねると、何か小さく言葉を続けた。

「え…?」

「……ほら、帰りますよ。それとも、夕食を食べ損ねたいですか?」

「駄目っ!!」

じゃぁ、行きましょうとエストが手を差し出して笑いかけてくれた。
あまりお目にはかかれないその表情が嬉しくて、私は喜んで彼の手を取った。

「今日の夕食は何だろうね?」

「本当、あなたは幸せそうですね……」

「うん!」

だって、本当は聞こえていたのだから。
どこまで好きにさせれば気が済むんですか…?そう囁く、愛しい人の愛しい声が。






素直じゃない彼と、素直な彼女

(これが二人の恋の仕方)










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