『クリスマスには戻ります』

実家に戻っていたエストからそう知らせが届いたのは二週間前のこと。
毎日カレンダーとにらめっこしながらその日を待ち、そして今日はクリスマス。
朝一番の便で戻ってくると言っていたエストを迎えるために、いつもより早起きをして――なんとアミィに起こしてもらわずに起きれたのだ!――ミルス・クレアから駆け出した。

エストを迎えに行く度に思うドラーグ発着場への距離の長さを例に漏れず感じながら、息切れしつつもなんとかたどり着けば、丁度ドラーグが到着したところだった。
降りてくる沢山の人の中からずっと会いたかったただ一人を見つけて、一直線に走り寄った。

「エスト…!!」

突っ込むかのように飛び付くと、昔は体勢を崩して後ろに倒れていた体は、今や難無く私の体を受け止めた。

「…まったく。相変わらずですね、ルル」

呆れたような声音とは裏腹に、私を抱く腕は強い。

「いいじゃない。これが私でしょ?」

にこっと笑うと、耳元で吐かれたため息。
そして抱いていた腕を少し緩められる。

「メリークリスマス、ルル」

左手を取られたかと思うと、薬指に冷たい感覚。

「え……これって……!」

そこにぴったりと嵌まったシルバーリングとエストの顔とで視線を行ったり来たりとさせる。

「あなたが『魔王の花嫁』になるための準備です」

エストの表情が真剣なものになる。

「狂信派の大部分を掌握しつつあります。あと一年程で戻るつもりです。そのために、まずはあなたにちゃんと伝えなくてはと思って」

エストは目をつむり一度息を吐くと、私の瞳をまっすぐに見つめた。

「僕と一緒に来てくれますか?――僕の、花嫁として」

その言葉の返事は、ずっと前から用意してある。
彼と共にあると決めたあの時から、私の気持ちは変わらない。

「当たり前よ!離れるつもりなんてないんだもの」

嬉しさに涙が一筋流れ落ちた。
その雫をエストの手が優しく掬い取ってくれる。
温かくて、優しい手。その温もりに、無意識に頬をすり寄せる。

「ありがとう」

言葉と共に、触れるだけのキス。
唇が離れると、「それでは…」と彼は呟き、軽く握られた右手を差し出した。
思わずその手の下に両の手を出す。

「あなたも、僕にはめてくれますよね?」

エストは私の掌に私のより一回り大きなお揃いの指輪を乗せた。

「勿論よ、エスト」

渡された指輪をエストの左手の薬指にそっと入れる。
入れ終えたのと同時に再び抱き寄せられる体。
昔はあまり体格差はなかったのに、今のエストは私をすっぽりと包み込んでしまう。
可愛かった男の子はもういない。
今私を包んでくれているのは、誰よりも素敵で、誰よりも私を愛してくれる男の人。
私は彼の側で一生を過ごすのだ。

「改めて、メリークリスマス、ルル」

囁かれた言葉に、私はエストの胸に頬を寄せて返した。

「メリークリスマス!大好きよ、エスト!!」






Love Love Love
(聖なる日を、大切なあなたと)










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