「エスト!!」
ドラカーゴから降りてきた自分の恋人を見つけ、私は彼に一直線に飛びついた。
「っ、……ルルっ!!」
いつもはそのままくらりと後ろに倒れてしまうエストの体は、しかし、今日は私の予想とは裏腹にその場で踏み止まった。
「……」
「……」
思わず顔を見合わせる。 そしてエストはにこりと笑った。……最近よく見るようになった、ちょっと意地悪な顔で。
「僕も、いつまでもあなたに押し倒される訳にはいかないってことです」
エストの腕が私の背に回る。
「やっと、あなたを受け止められた」
もう、可愛いなんて言わせませんよ? そう言う彼は既に可愛さとは掛け離れた艶やかさを纏っていた。
最近、可愛いエストを見なくなってきたわ……。
男の子の成長は早い、とよく言ったものだが、実際にそう感じたのは初めてだ。 三百五十年前に行ってしまった時とは随分とエストは変わった。身長も、性格も、魔法の力も。 どんどん素敵な男の人になっていくから、私の心臓は落ち着くことを知らなくて困ってしまう。
「頬が赤いですよ、ルル?」
背に回っていた片方の手が私の頬を撫でる。 長く綺麗な指が頬から顔のラインを沿って滑り落ち、そっと私の顎を持ち上げた。 近付くエストの綺麗な顔。 思わず目を閉じる。 唇に感じる吐息。
しかし、いつまでたってもそこから先の感覚はやってこなかった。
不思議に思ってつむっていた目を開くと、丁度エストの顔が私から離れていく所だった。
「貴女の可愛い表情を、こんな所で他の人たちに見せる訳にはいかないですから」
「…っ!」
忘れていた。本当に忘れていた。ここが、外だということを。 恐る恐る周りに見渡すと、パッと逸らされる沢山の視線。 自分たちがどれだけの注目を集めてしまっていたのかを思い知った。 そんな私の様子を見てエストは意地悪に笑う。 昔はこんな反応じゃなかったのに。いつのまにか立場が逆転し始めていないだろうか。
「さて、行きますよ」
すっと差し出された手。 いつものようにその手を取ろうとして、ふと動きを止めた。 そして再び伸ばした手を、彼の掌ではなく腕に絡める。
「ルル…?」
驚いたように私を見つめるエストの肩に頭を預ける。
「ダメ…?」
「別にかまいませんが…。突然どうしたんです?」
不思議そうにしながらも、エストは随分と伸びた私の髪を撫でる。
「エストともっと触れ合いたいの…!!」
だって久しぶりだもの、と呟けば。
「……成る程。それでは――」
エストは私の髪を一房掴むと幾度か指で弄んだ後に口づけた。
「二人きりになったときに、思う存分触れ合いましょう?僕だって貴女に会いたくて、触れたくて、堪らなかったのだから…」
その表情も声も、完全に可愛い少年のものではなくて。 更に高鳴る心臓をどうにかする術など、私にはなかった。
離れる身長、近付く心
(変わっていく姿を一番近くで見れるのは私)
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