「あれ…?」
授業を終えて廊下に出ると、珍しいことにエストとアミィが会話をしているのが見えた。 大好きな恋人と大好きな親友がいるなら私がそこに向かわない訳はなく、少し小走りで二人の元に向かう。
「エスト!アミィ!」
私が名前を呼ぶと、エストの肩がびくりと揺れた。
「エスト…?」
「い、いえ、何でもありません…」
「そう…?」
いつもと違うなぁと思いながらもエストの言葉を尊重して深く踏み込むことはやめた。
「二人がお話なんて珍しいね!」
「エストさんに質問を受けてたの」
私の言葉にアミィが微笑みながらみ答えた。 エストがアミィに質問ってことはきっと占星術のことなのだろう。 確か以前も質問したことがあるってエストが言っていた気がする。
「私このあと図書室に行くからここで失礼するわね。それじゃぁ、ルル、エストさん、また」
「うん、あとでね、アミィ!」
「ありがとうございました、アミィ」
アミィと手を振って別れ、私とエストはいつものように帰路に着いた。
それから数日した休日。 珍しいことにエストからパピヨンメサージュが届いた。 内容は、今日の夕方に会えないか、という簡潔なものだったが、勿論私は一も二もなく了承の返事をした。 その後すぐに時間と場所を知らせる返信が届き、期待に胸が膨らむ。
それからの時間はとても長く感じて、時計を見て、また少し経っては時計を見て、そんな行動を無意識に繰り返していた。
そして約束の時間。 私は早くエストに会いたい一心で小走りで約束の場所――湖のほとりに向かっていた。 木に寄り掛かって座っているエストを見つけ、走るスピードを上げる。
「エスト!!」
名前を呼び、エストが私を振り向いた瞬間に横から抱き着いた。
「ルル――うわぁっ!?」
エストは何とか私を正面から抱き留め、そのまま背中から地面に倒れ込む。
「いたた……。…ルル…」
呆れたように名前を呼ばれるけど、だってしょうがないじゃない、エストを見ると嬉しくて抱き着きたくなっちゃうんだもん。
「…はぁ…。貴女に何を言っても無駄だってわかってるので何も言いませんが、とりあえずどいてもらえませんか?」
もう少しこのままでいたいと思いながらも仕方ないので起き上がり、向かい合うようにして座った。
「今日はどうしたの、エスト?」
そう問い掛けると、エストの頬が欝すらと赤らんだ。
「エスト……?」
もう一度名を呼ぶと、エストは木の根本に置いてあった綺麗にラッピングされた袋を私に差し出した。
「これは…?」
両手で受け取り触ってみると、何やら柔らかい感触。
「…バレンタインのお返しです…」
言われて気付く。 そういえば今日はホワイトデーだ。 エストがそれを覚えていてくれたことにすごく嬉しくなった。
「ありがとう、エスト!開けてもいい?」
了承をとり、ラッピングを開ける。 そこにあったのは――
「これって……」
中身を取り出す。 それは黒猫のぬいぐるみ。 先週アミィとラティウムに行った際に一目惚れしたのだが、他の買い物を済ませた後で手持ちがなかったので諦めたものだった。
「なんで…、これ……」
「アミィに聞いたんです」
エストは私から視線を逸らしながらも、話してくれた。 バレンタインのお返しを悩んでいたこと。 私と同室で親友のアミィならいい解答を教えてくれるだろうと思ったこと。 そして私が黒猫のぬいぐるみを欲しがっていたが買えなかったと知ったこと。
「先日アミィに質問したのはこのことだったんです……」
話し終えたエストの頬は先程よりも赤く色付いていた。 きっとこのぬいぐるみを買うのはすごく恥ずかしかっただろう。 だけど私のために恥を忍んで買ってくれたこと、そして何より私のために沢山考えてくれたことが嬉しくてたまらなかった。
「ありがとう、エスト!大好きよ!!」
再びエストに抱き着く。 今度は倒れることもなく抱き留めてくれた。
そんな彼に感謝のキスを贈るべく、そっと唇を寄せた。
好き、好き、大好き!
(何よりも、誰よりも、貴方が大好き!!)
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