湖のほとりに来て欲しいの。
朝起きて着替えを済ませたところで、ルルからパピヨンメサージュが飛んできた。
普段登校時間ぎりぎりな彼女がこんな早くに起きていたことに驚きを感じながら、了承の意を返信する。

言われた通り湖のほとりに行くと既にルルが待っていた。
僕に気付くと、おはようエスト!といつもの笑顔で挨拶をしてきた。

「おはようございます。あなたがこんな早くに起きてるなんて驚愕以外の言葉が浮かびませんね」

少し意地悪い僕の言葉に、ルルはいじけたようにプイッとそっぽを向いた。

「私だって早く起きることぐらいできるわ!……アミィが頑張って起こしてくれればだけど……」

付け足された言葉が彼女らしくて、思わず笑ってしまう。
きっとアミィは毎回苦労しているに違いない。

「それで、アミィに頑張っていつもより早く起こしてもらって僕を呼び出した理由は何なんですか?」

宥めるようにルルのふわふわとした触り心地の良い髪を撫でると、心地よさそうに和らかな笑みを浮かべる。
その笑顔に僕が弱いことを彼女はきっと知らないだろう。
しばらくそれを続けていたが、ルルはふいに僕の前に綺麗にラッピングされた袋を差し出した。

「これは……?」

不思議に思いながら受け取ると、ルルは袋を持つ僕の手に自分のものを重ねた。

「今日はバレンタインだから!」

バレンタイン――そういえばそんな行事もあったと思い出す。

「アミィに見てもらいながら作ったから味は大丈夫よ!それにあまり甘くないチョコを使ったから」

だから、今食べて欲しいな…、と言われてしまえば僕はラッピングを剥がす他にない。
中から出てきたのは、ガトーショコラ。
それを手に取り口に運ぶ。

「どう…?」

期待と不安の両方の混じった瞳が僕を見る。

「甘い、です……。ですが、嫌な甘さではないですね」

ルルの表情が本当に嬉しそうな笑顔に変わった。
見られながら食べることに気まずさを感じながらも完食する。

「ご馳走様でした」

「全部食べてくれて嬉しいわ…!!……あ、エスト」

何ですか?と問う前に彼女の手が僕の口元に伸びる。

「ついてたわ」

そう言って手に取ったかけらをルルは自分の口に運ぶ。

「うん、美味くできててよかったわ!!」

無意識の行動なのだろう。
しかしそれが僕の心を簡単に掻き乱してくれたのだから本当に達が悪い。

「あ…あなたって人は……」

「え…?……あっ!!」

自分のしたことにようやく気付いたルルは顔を真っ赤に染めた。多分今の僕も同じ顔をしているだろうが。
…あぁ、愛しい。
考える間もなく僕は彼女に触れるだけのキスを贈る。

「エスト……!?」

「好きですよ、ルル…」

普段あまり口にしない愛の言葉を囁いて、そして再び唇を塞いだ。




甘い、甘い、甘い

(チョコよりもあなたが甘い)









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