「おはよう、エスト!誕生日おめでとう!!」
朝、ルルは出会い頭にそう言って僕に抱き着いた。 そうか、今日は僕の――。 言われて初めて思い出す。 しかし誕生日なんて言ったところで、今日が本当に僕が生まれた日かは定かではない。 僕の誕生日と言われた日は、『狂信派の最高傑作の出来上がった日』という可能性のほうが高いのだから。 だから今まで気にもしていなかった――寧ろ嫌いだった誕生日。 なのにどうしてだろう、ルルが嬉しそうに『おめでとう』その一言を告げてくれただけで、幸せな日に思えるのは。
「誕生日プレゼントはまだ部屋に置いてあるから、授業後に会えないかな?」
「わかりました」
「じゃ、談話室でいいかしら?」
「えぇ」
ルルはまた嬉しそうに笑った。 そして僕の手を引くと、足取り軽やかに寮の戸を抜けた。
約束の放課後。 いつものごとく一緒に帰ってきた後に、ルルは急いで女子寮に戻って行き、僕はそのまま談話室へと入った。 中は珍しく誰もいない。 ソファーに座ったところで、バタバタと足音が響いてくる。 そしてドアが開き、ルルが現れた。
「エスト!はい、これ!」
渡されたのは、綺麗に包装された四角い箱。 重さは多少ある。 ありがとうございます、と礼を言う僕に、彼女は開けてみてと促した。 包装を外し箱を開けると中にはシンプルなマグカップ。
「何にするか悩んだんだけど…、それなら邪魔にならないかなって思って…」
使ってくれたら嬉しいな、とルルは笑う。 こんな風に心のこもったプレゼントをもらうのは生まれて初めてだった。 それがとても嬉しいことなのに、慣れなくて戸惑ってしまう。
「ありがとう、ございます…。……すみません、こういう時どう反応していいか……」
ルルは一瞬キョトンとした後に、笑った。 何もかもを包み込むような、そんな笑顔で。
「エストのその気持ちが嬉しいわ。私の想いを受けとってくれたのだもの」
でもね…、とルルは続ける。 今度は無邪気な女の子の笑みをして。
「ありがとうの…、キス…してくれたら私は嬉しいわ」
感謝のキスだから頬でもいいのよ?とルルは自分の頬を指す。 僕はその手を包み込み、彼女との距離を縮めた。 軽く触れるだけのキスを一つ。 頬ではなく、彼女の柔らかな唇に。
「ありがとうございます、ルル」
多分僕の頬は今赤い。いつもなら逸らしてしまう視線。そもそもこんなことするのですら僕のキャラではない。 だけど今だけは、ルルから目を逸らさずに礼を告げる。 予想外の僕の行動にポカンとしていた彼女だったが、それは直ぐに幸せそうな笑顔に変わる。
「大好きよ、エスト!!生まれて来てくれてありがとう!!」
そう言ってルルは勢いよく僕に抱き着いた。
生まれたことを憎んでた。 生きてることが苦痛だった。 そんな僕に生きる喜びと意味をルル――貴女は教えてくれた。 もう絶対貴女を離せない、離したくない。 だからずっと、こんなふうに僕の側に居て欲しい。 この思いを言葉で伝えるのは恥ずかしいけれど、今は伝えなきゃいけないと思うから。
「好きですよ、ルル……」
そう囁いて、僕はルルの身体をギュッと強く抱きしめ返した。
生存意義
あなたがいるから、僕はここにいたいと思えるんです
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