クリスマスの日、ラティウムに行きましょう!! そうルルがエストに言ったのは、クリスマスの一週間前のことだった。
そして今日はその約束の日。 クリスマスということで、今日は特別に私服で街にでることが許されていた。 待ち合わせをしているエントランスでエストがルルを待っている間、制服を着ている生徒は一人としていなかった。 そんな彼も勿論制服ではない。 制服で来ちゃ嫌よ!と事前に彼女に言われていた。
「エーストー!」
女子寮の鏡から出てきたルルに、エストは思わず目を奪われた。 真っ白なセーターの上に同じく真っ白で長めのコートを身に纏い、下は白と黒のチェックのミニスカートにニーハイソックスと、とても女の子らしい姿の彼女がそこにいた。
「…エスト?私の格好どこかおかしい……?」
ルルの言葉に、エストはハッと我に返った。 魅入ってしまっていた。 エストは思わず彼女から顔を逸らす。
「……似合ってます…」
ぼそりと呟かれた言葉はルルを、そして言ったエストをも赤面させるものだった。
「い、行きますよ」
エストがエントランスを抜ける。
「待って!エスト!」
ルルが慌てて後を追い、エストの手を取った。 彼は一瞬ぴくりと反応したものの、振り払うことはせず、そのまま二人はラティウムの街へと向かったのだった。
「なんだあいつら…」
「青春ですヨ、ラギ」
二人を見ていたラギの呟きに、ビラールがにこやかに返した。
ラティウムの街は人で溢れていた。 クリスマスなので当然と言えば当然である。 その様子にエストはうんざりとしながらも、ルルに導かれるままに歩みを続ける。
「人が多いわね、エスト」
「本当に。…貴女と一緒でなければ絶対来ませんでしたね」
ため息と共に思わずでた本音に、言ったエストが驚いた。 見つめてくるルルから顔を背ける。 しかし、わずかに見える頬は、赤く色づいていて。 ルルは幸せそうに笑って、繋いだ手を引いた。
「行きましょう、エスト!!」
「…!?ちょ、ルル、引っ張らないでください!!」
そんなエストの叫びも賑わった街中に虚しく消えていった。
「あれ、ルルとエスト……?」
「この魔法を成功させるには――」
「いいなぁ、僕もクリスマスを好きな人とすごしたいよ……」
「いや、やっぱりこの魔法は――」
そんなルルとエストを見つけたマシューは羨望の眼差しで二人が去った方向へ視線を向け、ユリウスは二人に気付くことなくいつものごとく魔法のことだけを考えていた。
それから二人は様々な店を回った。 人が多くともエストが自分のために付き合ってくれることがルルはとても嬉しかった。
そして調度お昼時。 二人はカフェにやってきていた。
「これ美味しそう……!あぁ、でもこっちも…!!」
ルルがメニューと睨めっこを始めて早数分。 エストはため息をつく。
「そんなに悩むことですか?食べたいものがいくつもあるならまた別の機会に頼めばいいでしょう?」
うーん……、とルルは一度唸った後、よし!とメニューを閉じた。 そして店員を呼び注文をする。
「…あ、そうだ、エスト!」
料理が運ばれるのを待っていると、ルルは鞄にから一つの袋を取り出しエストに差し出した。
「クリスマスプレゼントよ!」
「あ、ありがとう、ございます…」
エストがそれを受け取ると、ルルは開けてみてと催促する。 言われた通りにその袋を開けると、中には細工の細やかで綺麗なしおりが入っていた。
「…エスト本をよく読むでしょ?だから、使ってくれると嬉しいな!」
「ありがとうございます。……それで、あの…」
「ん…?」
エストが言い淀む。 少し躊躇したものの、腰を少しだけ浮かせて対面に座るルルの肩を引き寄せ、顔を近付ける。
「へ……!?」
キスされる…!? 近付く綺麗な顔にルルが瞳をぎゅっと閉じるが、予想していた感触はない。 そっと目を開けると、調度エストが彼女の首元から手をはずしたところだった。 それにつられて視線を向けると、首元には今までなかったものが一つ。
「エスト、これ……」
ルルはそれと顔を赤くしたエストをと交互に見比べる。 首元にあったのは、彼女の杖のような王冠のついた可愛いらしいネックレス。
「…クリスマスプレゼントです」
エストは顔を背け呟いた。 顔を背けながらも彼の隠しきれていない耳は真っ赤で。 ルルは机越しに手を伸ばし、エストに抱き着いた。
「ちょっと、ルル…!?」
慌てるエストの頬に感極まったルルは口づけた。 エストの顔は更に朱に染まる。
「大好きよ、エスト…!!」
抱き着く腕に力を加えルルは幸せそうに笑う。 照れながらも同じく幸せそうなエストが彼女の耳元で、…僕も好きですよルル、と珍しく囁くのはこのすぐ後のこと。 そしてその予想外な艶やかさにルルが赤面するのはそのもう少し後のことだった。
Happy Christmas with you
「……二人とも、ここが何処か忘れてるよね」
「ななななな何をしているんだ!!…エエエエストらしくもない……!!」
「恋とは時に自分を見失わせるものだよ、ノエルくん。……まぁ、これでエストくんをからかったら面白いだろうけど」
カフェの一角には、慌てふためくノエルと、その彼と勝手に相席をしてよからぬことを考えていたアルバロがいた。
|
|