居たい場所、居られない自分/krbs 高尾 1/2


「ったく。俺はリアカー持ってくるから、二人は鞄持って来いっつったのに……」

 なかなか来ないので、仕方なく真ちゃんと名字を探して校内の廊下を歩く。
 教室にいるだろうと思い、足を向ける。そして予想通り、教室に二人がいた。明るく軽口を叩くつもりで扉に手をかけるが。

「どうかしたの? あんまり待たせると悪いし、早く高尾くんの所に行かないと」
「いいのだよ」
「えっ、でも…」
「いいと言っている」

 二人の話し声が聞こえてきて、思わず手が止まる。
 初めて聞く、真ちゃんの切羽詰った声。まるで余裕がないのが分かった。
 あぁ、これは─―。

「それより、言わなければならないことがある。俺は……俺は名字のことが」

 きっと、言うつもりなんだろう。名字に、その気持ちを。なら、俺は……どうすればいい? そんな逡巡の後、歯噛みした。そして。

「なーにやってんの、お二人さん!」

 作り笑顔を貼り付け、止まっていた手で勢いよく扉を開け放った。驚いた顔をしてこちらを見やる二人を余所に、肩をすくめながら二人に近付いていく。

「まったくよー待ってんのに全然来ないでやんの」
「あ、ごめん高尾くん……」
「あんまりにも遅いから先に帰ろうかと思ったくらいだぜ」
「高尾、お前……」
「んー? 何、真ちゃん」

 怪訝な表情を浮かべ、俺を見つめる真ちゃん。それに対して気付かない振りをして聞き返す。……作り物の笑みを浮かべたままで。
 そんな怖い顔しなくたって、いいじゃんか。
 きっと、真ちゃんは気付いている。やっとの思いで真ちゃんが作った、二人だけの世界。俺がその世界を、わざとぶち壊したってことに。

「ま、いいや。さっさと帰ろう、ぜ!」

 仕切り直すかのように、二人の背中を思いっきり叩く。

「い、痛いよ!」
「悪ぃ悪ぃ。家まで送ってくから、それで許してくれ」
「送ってくれるのは本当にありがとう。だけど、まだ痛むのでジュース一つで手を打とうではないか」

 名字は悪戯っぽく笑って、俺の軽い流れに乗っかる。だが、その軽い流れが、俺のやったことが故意ではないと、うやむやにしようとしているだけのものだとは思ってもいないのだろう。胸がちくりと痛んだ。そして、その痛みにも……気付かない振りをした。

「って、たかるのかよ!? へいへい……何でもお好きなものをどーぞ……」
「おー! 言ってみるもんだね! 緑間くんはおしるこにする?」

 表情が曇ったままの真ちゃんにさり気なく話を振る名字。俺と話していても、真ちゃんのことを気に掛けている。
 話してんのは俺なのに……やっぱり、か。名字も、“そう”なんだろう。こういう小さなことでも、思い知らされる。

 俺は……いらない?

「真ちゃんの分まで奢るのかよ!」

 それでも俺は……俺に出来ることは、へらへらと笑うことだけだった。

「俺はおしるこを二つだ」

 真ちゃんはいつもの表情に戻っていた。まさか真ちゃんまで乗ってきてくれるとは思っていなかった。とりあえず、おしるこ二つで水に流す……というより、水に流すからここはおしるこを二つ奢れってことか。
 優しいっていうか、甘いっていうか。どちらにせよ、この対応はありがたかった。便乗すればいつも通り、のはずだ。

「マジかよ……」
「当然だ」
「わーったよ分かりました喜んで献上します!」
「分かったのならいいのだよ。さっさと行くぞ」
「いや、それ俺が言ってたんだけど」

 言葉通り、さっさと教室を出ていく真ちゃんに苦笑していると。

「待って緑間くん!」

 そう言って慌てて真ちゃんの背を追いかけ、俺を追い越していく名字。ふわりと風が頬を撫でていった。ゆっくりと廊下に出て、遠ざかっていく二人の背中をぼうっと見つめる。
 二人がお互いを想っているのは分かっている。本当は俺の存在が二人の邪魔になっているってことも。そばにいれば、すぐに分かることだった。
 それでも、ここに居たい。望みがないと分かっていても、名字への想いを諦めきれない。けど、真ちゃんのように想いを告げる勇気が……俺にはなかった。俺が告げてしまえば、三人の関係は壊れていく。

「ほんと……真ちゃんには敵わねーや……」

 くしゃくしゃと頭を掻く。自分のしたことを心の中で詫びた後、大きく息を吸い込む。

「真ちゃん! 名字!」

 大声で呼ぶと、二人は振り返った。そんな二人の元へ走る。
 いつか俺は、ここに居られなくなる。その時はいつもみたいに笑って、消えるから。だから今は、今だけは──

「俺を置いていくんじゃねー!」

 一緒に、名字のそばに居させてくれよ。

(2013/12/24)


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