『会えない時間が愛を育てる』なんて話/徐庶 1/2


 城門前。篝火が闇夜を照らす中、彼女の姿を探す。
 兵たちに戦による疲労の色が見える上、疲弊した兵を引き連れての夜間の移動は得策ではないと判断。城からは少々離れている拠点に駐留する……そう聞いてはいた。今日はもう戻ってこないと知っていながら、どうにも落ち着かず、もしかしたらと城門前をうろついてしてしまう。

「何やってんだい、元直」
「警備の者が不審がっていますよ」

 不意に声を掛けられ振り向くと、どこか呆れた様子の士元と孔明がいた。

「そんなに彼女のことが心配ですか?」
「ああ。いつ何時、何があるか分からないから」

 何かが起きてからでは遅い。もし飛んで行けるなら、今すぐにでも実行に移していただろう。俺が傍にいることで避けられる事柄がどれほどあるかは分からない。だがそれ以上に――。

「あの子はそんな簡単にやられるような器じゃないよ。それは元直が一番よく知ってると思うんだがねえ」
「分かっているよ、士元。だけど……」

 ただ、不安なんだ。この身が彼女から離れている分、心まで遠のいてしまうかもしれないことが。彼女が他の誰かを想うような心の隙間が生まれてしまうかもしれないことが。ただただ不安で、怖くて、堪らない。
 歯噛みする俺を見て何かを察したのか、孔明は目を細めた。

「もっと信用してあげてはどうですか。彼女は、あなたの危惧するような事態を招く人間ではありませんよ」
「ああ、そうだな。孔明の、二人の言う通りだ……」

 孔明の視線に耐えきれず、逃げるように目を伏せた。二人の言葉は正しい。彼女が悪いのではない、全ては俺の所為だ。俺の弱さが、不安を膨れ上がらせているというだけのこと。爪を立てるように自分の腕を強く掴む。腕にじわじわと鈍痛が広がっていくが、胸の痛みまでは誤魔化せない。

「『会えない時間が愛を育てる』……と言いますから、今この時間は愛を育む大切な時間だと思えばよいのでは?」
「さすが、諸葛亮は奥方がいるからか言うことが違うねえ。あっしにはまだ理屈しか分からないねえ……。ん? どうかしたのかい、元直」
「……俺には、分からない」

 分からない。分かりたくない。頭を振って理解を拒絶する。
 段々と麻痺し始めたのか、掴んでいた腕は何も感じなくなっていた。

「いつか、あなたにも分かる日が来ますよ」
「孔明、俺はそんな話を信じ込めるほど、純粋な人間じゃないよ」

 離れている間に育つこの焦燥感と沈痛が愛だなんて、俺には信じられない。信じたくない。都合がいいだけの愛に身を委ねたくはない。
 早く彼女に会いたい。彼女が傍にいないと、自分が自分ではなくなっていくような感覚に襲われる。けれど、彼女といる時にだけ、俺は俺に戻ることが出来る。彼女を見つめ、声を聞いて、触れて、確かめたい。俺が俺だということを。この愛と呼ばれる不安に、狂ってしまうその前に。


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