君の世界/徐庶 1/1


 民からは常に不満が上がり、配下は入れ替わり立ち代る。なまえはなまえだけの国を創り上げていた。
 彼女の目に映る世界は、一体どんな色をしているのだろう?

「ん? どうかしたの? 徐庶」
「えっ? あ、いや……何でもないよ」

 王座に座るなまえを無意識に見つめていたらしい。見惚れてしまっていた気恥ずかしさと、何とも言えない居心地の悪さを感じて視線を逸らす。
 建国する以前からなまえに仕えているが……未だに彼女が何を考えているのか、俺には分からない。ずっとそばにいるのに、心を読み取ることが出来ない。

「あぁそういえば、この間脅しつけてきた隣国、どうしようか」
「どうしようって……何かあるのかい?」
「んー、襲って様子を見るか。それともさっさと侵攻して滅亡させるか。どちらにしようかと思って」

 なまえは次の遊びを企てる子供のように楽しげに笑っていた。そんな彼女とは裏腹に俺の顔は段々と険しくなっていく。

「……お遊びでやるつもりではないけれど、まだ慣れない?」

 見兼ねて、だろうか。投げかけられる質問。なまえのやり方のことだろう。利用できるものは全て利用し、自分の意に沿わないものは切り捨て、潰す。

「おかしいとは思う。けど、俺には分からないよ……」

 君のことが、何一つ。でも。だから。どうしようもないほど惹かれる。知りたいと願う。

「徐庶は優しいね。……でも、その優しさはいつか貴方を殺すよ。この世界は、優しい貴方に優しくない」

 なまえは王座から立ち上がり俺の目を真っ直ぐに見据え、一言一言、言い聞かせるようにゆっくりと語りかけてくる。
 彼女は笑っている。先ほどとは打って変わって、氷のように冷え切った目を湛えながら。その瞳に映っているのは、俺。だが、本当に見ているものは俺じゃない。もっと別の、何か。

「君に一体何が……」
「何もないよ。ただ偶然が重なっただけ。きっと、それだけ」

 背を向け、俺の言葉を断ち切った。

「……言えることは、私は私の世界を創る……ってこと、かな」

 そう語る背からも、彼女の思いを窺い知ることは出来ない。

「私は……この世界が、大嫌いだよ」

 なまえ消え入りそうな声で呟いた。でも、その声には確かな憎しみが籠もっていた。
 残酷で不条理なこの世界。俺は世界に嫌われているのかと思ったこともある。嫌いになりかけたこともあった。だけど──

「俺は……この世界を嫌いにはなれなかったよ」

 なまえと出会えたから。
 何故、こんなに近くにいるのに同じ気持ちになれないのだろう。近付けば近付くほど、心は離れていく。
 出会うずっと前に、心は決まっていたから……? そんなことに気付きたくなんてない。

「でも俺は、なまえについて行くよ」

 依然として背を向けたままの彼女に答えを告げる。きっと俺は、この先も、彼女のやり方に疑問を抱き、考え方の違いに苦悶するのかもしれない。
 それでも──

「なまえの傍にいたいんだ」

 同じ気持ちになれないのなら、俺の心に深く絡む疑念を、再び浮上させることの出来ない場所まで沈めてしまえばいい。それで、なまえの傍にいられるのなら。

「……本当に徐庶は、優しいね……。なら、見せてあげるよ。私の創る世界を」

 なまえは振り返り、いつもより少し嬉しそうな、でもどこか悲しげな笑顔で俺に手を差し出してくる。俺はその手を取った。俺よりも、少し冷たい彼女の手を強く握る。

「ああ。君が見ている世界を、俺にも見せてほしい。なまえの、隣で」

 これほど望んでも、願っても、求めても、それでも君の世界を見ることが叶わないのならば……君の一つになりたい。


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