心を闇で塗りつぶす/鍾会 1/2


 いつからだろう、「あいつに近付く奴はみんな消えればいい」と思うようになったのは。
 始めはただ苛立たしかった。下心を持って近付いていく奴等も、警戒心の欠片もないなまえも。
 だが今は…なまえに近付く奴等、全員が疎ましい。なまえが他の男と話をする。…想像するだけで虫唾が走る。


 地下にある一室、鍵を開けた扉の向こうにはなまえがいた。まぁ出られないように鍵を掛けているんだ、当然だろう。
 口元が緩むのを抑えながら彼女に話しかける。

「一応は元気そうだね、なまえ。ちゃんと食事は取っているか?」

「……はい」

「この私が会いに来ているんだ、もっと嬉しそうにしたらどうなんだ?」

「すみません……」

 この部屋に連れてきてからというもの、なまえはめっきり笑わなくなった。以前はよく笑っていた。まるで、光のように。

「……何か欲しい物はあるか?」

「いえ、特に欲しい物は……。ただ……」

「『ただ』……何だ、言いたいことがあるならはっきり言え」
「……わ、私はいつまでこの部屋に居ればいいんですか……?」

 くだらない質問だった。

「当然、ずっとに決まっている」
「! そんな……!」

 どうしてそんな悲しげな顔をする?

「一体何が不満だって言うんだ? くだらない連中と関わらずに済んで良いこと尽くめだろう……!? それともお前は……!」

 お前も、私のことが、要らないというのか……?

「すみ……ません……」
「……なまえは……何もするな。いや、何もしなくていい、全て私が手を回しておいてやる。お前に害を為す奴等は絶対に近付けさせない」
「はい……」

 何故、笑わない? 何故、喜ばない?
 お前の為になることをやっているはずなのに、どうして、どうして以前のように笑ってくれないんだ。

「勝手に何処かへ行くことも許さん。ただここに、私の元に……居ろ……。何処にも……行くな」

 繋ぎとめるようになまえを抱きしめた、震えている。その震えがなまえのものなのか、自分のものなのか分からない。
 こんなにも近くで、触れ合っているのに、何も分からない。何一つ、分からない。

 光のように明るく照らしていたなまえの笑顔。光が強くなると闇は深くなるという。
 なら光が消えたら、闇は──


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