奇跡がおきたらいいのに/馬岱 1/2
「俺、おかしくなっちゃったのかなー」
よく戦場で出会う──敵国、魏の将である彼女のことばかりを考えてしまう。
「まあ、理由はなんとなく分かってるんだけど」
彼女を一目見た時から気付いた。彼女は俺と同じ“もの”を抱えている。
「あなたは、気に入らない」
「いきなりご挨拶だなぁ、なんだか悲しいよ」
「心にもないことを…」
彼女の瞳はいつも真っ直ぐで、見たものを射抜くような力強さがある。でも、今は揺らいでいるように見えた。
「でも俺、君のこと結構気に入ってるのよ。だからまた会えて嬉しいよ!」
「……変な期待をさせないで……!」
前に会った時の会話を思い出す。
俺は彼女のことを『気に入ってる』彼女は俺のことが『気に入らない』。
きっと、どちらも同じ“もの”を抱えているからなのだろう。
「やっと同じ“もの”を抱えた人に出会えたのに、敵だなんて…ね」
ましてやあの魏だ、若のこともある。
彼女と俺を繋ぐ“もの”。
でも、決して道が交わることはない。
奇跡がおきたらいいのに。
「はーあ、らしくないね。…奇跡なんておきるわけがないのに」
もし奇跡がおきることがあるのなら、そもそもここにいないだろう。
「……次もまた戦場かな。会いたいような、会いたくないような」
思わず苦笑を漏らした。
どうか、彼女が居なくならないようにと願う。彼女が居なくなったその時、本当に俺は“孤独”になるんだろう。
そして、俺が居なくなったら、また彼女も──
「生き残るのが俺の信条なのよーってね。……独りにはさせないよ」
この想いは独り善がりなのかもしれない。だとしても“孤独”の中に置いていったりはしない、彼女だけは。
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