この関係を越えてはいけない気がして。/李典 1/2
「李典、私と義兄弟になってくれる?」
うまくいく予感がしていた。だがそれと同時に嫌な予感もしていた。
…まさかこんなことになるとは思っていなかった。思いたくなかった。
突然のことで呆然としていると
「どうかした? ……私と義兄弟になるのは嫌?」
なまえの悲しげな表情が目に入って、ようやく我に返る。
「え? ああいや! んなことねーよ!?」
「ならよかった!」
本当は……死ぬほど嫌だった。
俺は一人の女としてなまえが好きで。でも「義兄弟」になってほしいっていうことは、相手にとっては違ったということだ。
でも、自分の気持ちに嘘を吐いてでも、彼女に悲しい顔はさせたくなかった。なまえには笑顔が一番似合うから──
「李典は弟がいい? 兄がいい?」
なまえは無邪気に訊いてくる。
「あ、ああそうだな。弟は勘弁してほしいぜ俺……」
「じゃあ兄か、うーん、兄っぽくないなぁ」
嬉しそうに笑っている彼女の、一番似合うであろう顔をうまく見ることが出来ないでいた。
数ヵ月後、とうとうこの日が、二人で桃の木の下まで来てしまった。
本当に、誓う前に訊きたかったこと。
「本当に…俺でいいのか?」
「李典になら、背中を預けられるよ」
俺の言った言葉に「本当にこれでいいのか?」「何かの間違いであってほしい」という意味が含まれていることに、彼女は気付かない。
「背中を預けられる」……こんな状況でなければ、どんなに嬉しい言葉だったか。
「そーかい……。じゃ、その言葉通り、あんたの背中、俺が守ってやるよ」
「李典の背中は任せてね!」
***
「一体いつまで持つかねぇ……これ」
もう越えられない、越えてはいけない関係になってしまった。少しの間なら耐えられるだろうが
「いずれ、我慢の限界が来る……よな。その上ずっとそばにいるんじゃ……大丈夫か俺……」
きっと思っていることを話したら、なまえは傷付く。傷付けたくは…ない。
「まぁ、とりあえずは“良いお兄さん”でいるか、あいつの為にも」
『叶う望みもないまま、ずっとそばにいる…まるで鎖に繋がれているみたいだ。』 『傷付けてでも越えたい、話したらあいつはどんな顔をするだろうか、もしかしたら……
「……って、何考えてんだよ俺!?」
頭をかきむしりながら、どこか歪んだ感情を心の隅に追いやった。
徐々に大きくなって、心の全てを覆い尽くすであろう感情を──
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