「それではぁ〜今年も!ホーリーナイツクリスマスパーチー@要っちずホーム を始めます!
開始の音頭は私、橘千鶴が取らせて」
「いただきまーす」


「...くぉらぁゆっきー!何勝手にチキン食べとるんじゃい!!」
「もー祐希くんてば...皆我慢してるのに」
「ふぉへんへ、ひゅふ」
「ごめんね、春。...だって」
「...しょうがないですねー...じゃあ今度こそ、いきますよっ?」
「ふぁーひ」
「ちょ、ちょっと待って春ちゃん、それおれが」

メリークリスマース!

かちんと盛大にシャンメリー入りのグラスが鳴って、今年最後のイベントが始まった。バックグラウンドミュージックは母親が選んだマライア・キャリー。





我が家のリビングに飾られたツリーや母親お手製の料理は壮観だった。そのど真ん中に鎮座するソファーに腰をおろして、溜息をつく。まさか昨年に引き続いてこの家を提供することになるとは。しかもこの五人で。

「はい要っち、あげる!」
「あ?」

小ザルがニコニコと俺に三角帽子を被せてきた。やばいちょー似合う似合うぶはっ!噴き出して去って行く。馬鹿にしてんじゃねえよ。
そうだ、五人。俺の綿密な脳内計画によれば、今日は悠太をスマートにエスコートして、二人っきりのはずだった。


八月の嘲るような陽気のもとーまさにアウトオブザブルーだったー俺が悠太に告白した、なつのひ。コンクリートも肌に張り付くシャツもつるりと指を滑らせた悠太の顔も、何もかも真っ白だった。


あれからもう、四ヶ月も経ったのか。その割には見事に進展していない。だからこそ、せめてクリスマスはと思っていた、のに。

「...あああ」

「何をそんな憂いてるんですか、お父さん」
「うわ!」

悠太がいつの間にか隣に座り、じっと俺を見ていた。
驚いて、ちょっと冷や汗をかく。今日お前と二人で過ごしたかったなんて、気恥ずかしくて言える訳もないが、ひょっとして顔に出てやしないだろうか。俺は乱暴に顔を拭った。

「なんでもねえよ」
「...ふーん」

悠太は片頬をわずかに膨らませて目を伏せる。俺は先程被らされた三角帽をもぎとって、ぼすんと悠太の頭に乗せてやった。

室内灯の真下、ほんのり橙色に照らされた悠太の顔は無表情だったけれど、
「似合う?」
首を傾げて尋ねる語尾は能天気に甘かった。何か茶化してやろうかと思いかけた矢先、

「ねー要っち!」
「なんだよ...」
「きてきて!」

小ザルがツリーの下でしきりに手招きをしている。春もセットだ。

「...ちょい行ってくるわ」
「いってらっしゃい」

口元を隠してふふ、と笑う悠太。なんだか新婚夫婦の出勤前みたいな空気に、俺の脳が浮かされそうになった。

「要っち、このツリー、でんきは?」
「は?電気?」
「あ、ええと、電飾のことです」
「電飾ねえ...。要るか?」
「ムードないなぁせっかく大っきいのにー。ツリーなんて、光らないとただの木になっちゃうじゃん。カワイソウ!」
「お前な...これはあれだよ、省エネ。エコ。そうだエコだ」
「うわっ無理矢理感パねぇ」
「触覚一本くらい省エネするか、お前も」


ちらりとソファーとテーブルを確認すると、よく似た頭が、ふたつ。ソファーの背もたれから少しはみ出している。と思ったらそろって勢いよく倒れこんだ。

「...何してんだあいつら」
「ゆっきーがゆうたんにあーんして貰うって、さっきあっちに」
「ほんと仲いいですよねー」
「あれ?要っち?」

本能的につかつかとソファーの前に回る。何やってんだお前、と祐希を引き剥がしてやるつもりだった。

ソファーにシワを寄せて、ふたつの体が折り重なっていた。
悠太のうっすら色づいたくちびるの間に、銀色のスプーンが押しつけれている。覆い被さっていた祐希が、「あ」と言って俺を見、上体を起こす。途端、祐希の影に隠れていた悠太の顔が、真っ青になった。

「...ほんとに、何やってんだよ」

俺は傍目にも大層怒って見えたらしい。事実、祐希が何か言いかけたが、肩をすくめてソファーからおりていった。



その後も着実に料理はなくなり馬鹿騒ぎは続いたけれど、一言も悠太と喋ることはなかった。

日も暮れそろそろお開きにと、やだ帰りたくないこの家の子になる、と終始テンションの高かった小ザルがわめくのを祐希が引っ張るようにして、一同は帰って行った。

祭りの残骸だらけの一気に閑散とした部屋で、俺はそっと小さな箱をポケットから出して眺めた。
渡せたらいいななんて希望的観測だったから、当然といえば当然の結果だ。機会がなかったのだからしょうがない。しょうがない?顔をあげると、吸い寄せられるかのようにクリスマスツリーが目に入った。確かにそこに、キラキラ色鮮やかに輝く電飾はない。必要ないのだ、俺には。だって。

そこまで考えたら走り出していた。



「悠太!」


曲がり角を回った所で追いついた。皆いっせいに振り向いたが、悠太は「さきいってて」とやんわりと振り切った。祐希が俺にむかって、ほんの一瞬ニヤリとしたように見えたが、気のせいであってほしい。



「...よかった」

悠太はそっと、そう言った。
白い息が夜に溶けた。
俺の視線は真っ黒な空と、街灯の光が落ちて黄色い地面とを行ったり来たりする。

「かなめ、」

掠れた声で名前を呼ばれて眩暈がした。

「...さっきは、ごめん。俺って意外と嫉妬深いみたいだわ」

言いながら情けなくなる。全然スマートじゃない、俺。
でも悠太は「嬉しい」と呟いた。

「要がヤキモチ焼いてくれるなんて」
「...紛らわしいことさせてんじゃねぇよ」
「...うん。ごめんね」

そして初めて俺は小箱の存在を思い出した。

「これ。そんな高いやつじゃないけど...」

急いでポケットを探り、小箱を差し出す。悠太の目が大きく見開かれた。

「...ありがとう...うわ、どうしよう。俺、そんなの、用意してなかった...ごめん」

「や、別にいい。俺も突然だし...。
その代わり、お返しはもらう」

「え、」


動揺する悠太の後ろ髪に手を回し、引き寄せてキスをした。髪は冷気を含んでさらさらしているのに、くちびるは温かくて柔らかい。不思議なもんだなと思った。

ゆっくり目を開けてみると、俺の視界を独占する、悠太の真っ赤な顔。

やっぱり、キラキラカラフルなイルミネーションなんざ、これで充分だ。




エコイルミネーション

お題配布元:反転コンタクト

神企画様に捧げた文章。クリスマスおめでとう、かなゆた万歳。電飾といえば白橙青赤ですよね?←



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