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(???)

眩しさを感じ、私はゆっくりと目を開けた。
視界に入るのは真っ白な天井。そしてベッドの縁に腰掛けて足をぶらぶらと揺らすルチアーノの横顔。


『あ、起きた。おはよヒユラ』

「うん……おはよう」


頭がガンガンする。いったいな……。
片手で頭を抑えながら上半身を起こすと、窓の前にホセが、ベッドのフットボードにはプラシドが、それぞれ寄りかかっていた。


「ここは……」

『病院だ。体の調子はどうだ。痛む所はあるか』

「大丈夫だよホセ。心配ありがと」


そうか、病院か。

肌を撫でた緩やかな風に気づき、窓を見る。
空気の入れ替えの為に少しだけ開けられた窓。そこから病室に入り込む風が真っ白なカーテンを揺らしている。
透明なガラスの向こうには澄み渡る空。そして活気ある街が広がっていた。


『計画は失敗に終わったな』

「……うん」

『心が軽くなっただろぉ?』

「そうだね。背負うものがなくなったから……かなり」

『ふん。お前は何か背負っていたのか?』

「背負ってたよ!」


もう、なんて事を言うんだ。
私だって覚悟や意思を背負っていたんだぞ。
馬鹿にしたように肩を揺らして静かに笑うプラシドを軽く睨むと、病室の扉がノックされ、開く。
3人が一斉にそちらを向いた。


「気がついたか」


入ってきたのは遊星さんだった。
ラフな格好で、片手にはビニール袋。
遊星さんはこちまらで来ると、ベッドの横に置いてあった丸椅子に腰を下ろす。


「あの、遊星さん……」

「何も言うな。とりあえずこれでも飲んでエネルギーを補給しろ」

「ありがとうございます……」


遊星さんがビニール袋から取り出したのはゼリー飲料だった。
フタを開けてもらい、私はそれに口をつける。
なんだか久し振りな感じがする。
そういえば……今日は何日なんだろう。

私の疑問を察したのか、遊星さんが話し始める。

遊星さんは仲間と共にゾーンを倒し、ネオ童実野シティを救った。
ゾーンに私を託された為、これから面倒を見る。
あの日から半年は経過しており、私はデュエルによるダメージで半年間意識不明だった。
なんだか……実感ないな。


「ところで、誰かと話してたのか?やけに楽しそうだったが」

「はい。三皇帝と話してました。聞いて下さい遊星さん。プラシドってば酷いんですよ?」

「……やっぱり、医者の言った通りか」


ん?やっぱり?
何の話だろうか。
首を傾げたまま遊星さんを見つめると、彼はなんだか気まずそうに視線を逸らし、一度息を吐いてから私を見詰めた。


「ヒユラ。言い辛い事なんだが、聞いて欲しい」

「はあ……」


真面目な顔をして一体どうしたんだろ。


「ヒユラ……三皇帝はもういないんだ。アポリアに戻って……そのアポリアももういない。お前は幻覚を見ている」

「……知ってますよ」


あの甲高い笑い声が聞こえた。
私の答えに遊星さんが顔を上げる。表情は驚愕に染まり、私はまた「知ってます」と頷く。

そんな事、分かってるよ。
三皇帝はアポリアに還った。そしてアポリアは死んだ。
アポリアだけじゃなく、私の仲間達はみんな死んだ。
遊星さんと、遊星さんが繋いできた絆の力によって……全てを砕かれた。


「でも見えるんです。そこにいて、話しかけてくる。触れてくる。こんなの……幻覚と分かってても返事しちゃうじゃないですか!!」


自分で相手をしてて変だと思わない訳がない!
デュエル中からそうだった。
プラシドが現れて私を励ました。ホセとルチアーノと共に戦術に指示をくれた。
私の都合の良いまぼろしだってわかっていた。
でも、でも……私はそれに縋るしかなかった……。

涙が止まらない。ボタボタと大粒の涙が落ちて、白い布団に水玉を作っていく。
遊星さんが優しく私の涙をハンカチで拭い、そのまま抱き締めてくれる。
背中と後頭部にまわされる手が、優しく撫でてくれる。
今までいろんなものを受け止めてきた広くて逞しい腕に抱かれ、また涙が溢れてくる。


「わ、たし……3人の事はもう、受け入れていたつもりでした。もう会えないって、でも大丈夫だって……でも所詮は、“つもり”でしかなかったんですね……」

「……精神的なモノは自分でなんとかするしかない。ゆっくり、ゆっくり、少しずつ……受け入れていこう。辛いかもしれないが、決別しなくちゃならない。いつかは自立しなくちゃならない」

「そう、ですよね……」


このままでは私は駄目になる。ちゃんと3人との思い出と感情に……けじめをつけなくちゃ。
ゾーンに言われた通り、自分の人生を生きなくちゃ。


2017.01.15

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