(134話)
クロウもジャック同様に病院送りになってしまい、チーム5D'sのラストホイーラー・遊星さんがアキさん達に見送られてサーキットに出る。
「馬鹿な選択をしたもんだね。もう1ターン生き長らえる事も出来たのにさ」
ルチアーノが腕を頭の後ろで組み、椅子にもたれかかる。
確かに、さっきのコンボをグランエルが攻撃してきた時に発動していれば、ブラックフェザー・ドラゴンが攻撃の盾となってクロウはもう1ターンだけ反撃のチャンスが増えた。
でもそれをしなかったのは……。
「雑魚の死に様などどうでもいい。問題は不動遊星だ。ヤツだけは侮れない」
「やけに持ち上げるじゃないか」
「ヤツにトドメを刺すのは俺だ」
遊星さんはどんなデュエルを見せてくれるのだろう。
今までずっとチームのピンチを救ってきた救済の英雄。
ホセはどうやって遊星さんの戦術を切り抜けるのだろう。
破滅の未来な、なんだ……急に気分が。
座っているのに立ち眩みだなんて、疲れてるのかな、私。
倒れかける私を支えたのはルチアーノだった。
小さな体が私を力いっぱい抱きしめる。
「まさか、アレを見せんの!?」
「ホセめ……全く忌々しい!」
空が異様な雲に包まれていく。
なんだ……ホセがなにかしたのか。
輝きに飲み込まれていく眩しさに目を閉じて、再び目を開いた時……私は空に浮かんでいた。
「んなっ、にこれ!」
う、浮いてる!……よりも、これは一体……。
見下ろす景色に息を呑む。
地に突き刺さる石板は全てシンクロモンスターのカードだ。
その中央にあるのは、歪んだなにか。よく見ればあれは……ダイダロスブリッジのモニュメント。
じゃあここは……ネオ童実野シティか。この光景は初めて見た。
景色が、変わる。
「……機皇帝?」
曇り空が覆うネオ童実野シティに降りてくるのは、大量の機皇帝。
突然の閃光。そして暴風。
機皇帝が街を破壊していく。
あっという間に街は壊滅状態。
逃げ惑う人々、黒煙を上げる街並み。
これがゾーンが言っていた、破滅の景色。
「……ルチアーノ!」
瓦礫だらけの街を走るルチアーノを見つけた。
両親だろうか。母親に手を引かれ、先頭を走る父親についていく親子の姿に目を見張る。
彼らが走る道路、その背後にグランエルが現れ、キャノンを三人に向けた。
「やめ、……!」
手を伸ばした所で届く筈もなく。
無慈悲にも光線は放たれた。
両親が突き飛ばして助けたのだろう。ルチアーノだけは無事だったが、両親は跡形もなく……そんな。
再び景色は変わり、次は人間が機皇帝に立ち向かっている時代に。
プラシドだ。軍服を纏い、銃を手に機皇帝を待ち伏せしている。その彼の隣には、ひとりの女性。
彼女がかつての恋人……エウレアさんかな。
二人はグランエルへの奇襲を行い、グランエルにエウレアさんが放ったミサイルが直撃。
お互いに頷き合った直後、グランエルの光線が二人の隠れていた廃墟に放たれた。
「……!」
声が出なかった。
光線は運悪くエウレアさんがいた場所に当たり、彼女は……。
「……アポリア、」
景色がまた変わる。
この光景には見覚えがあった。
見慣れたその姿。ホセが一番近い、老いた彼の姿。
……ひとり生き残ったアポリアは世界を彷徨い歩いた。誰か、他の生存者を探して。
深い絶望と共に彼は生きた。このまま寂しく弱り、死んでいく事を恐れた。
アポリア、私はここにいる。私がいる。私が……。
どうして彼がひとり絶望しているときに私はここに居なかったのだろう。私は、あなたの希望に、……。
「っはあ、」
ハッとして目を覚ますと、ルチアーノの腕の中だった。
息が苦しい。荒い呼吸を繰り返す私を見下ろし、「……見たんだな」と呟くルチアーノ。私は小さく頷いて、ルチアーノから離れようと体を起こすが「待って」。ルチアーノに抱きしめられる。
「もう少し……今だけだから。僕を離さないで」
「ルチアーノ、そろそろ行くぞ」
「……チッ」
プラシドが席を立ち、ホセの居る方向を見つめる。
……今から、か。
私を最後にめいっぱいの力で抱きしめ、ルチアーノが離れていく。
「……戻るんだね」
「ああ」
「じゃーね、ヒユラ。お前と過ごす時間は、なかなか楽しかったよ」
二人が光を纏って飛び去るのを見送って、私は曇り空に浮かぶ“∞”のマークを見上げる。
さようなら、ホセ、ルチアーノ、プラシド。
おかえり、アポリア。
心にぽっかりと穴が空いたようだった。
私はずっとアポリアに会いたかった筈なのに、いざ三人がいなくなると寂しくなって三人の事を考えてしまうなんて。
2017.01.12
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