×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
(97話)

クロウが事故で怪我をして、代わりにアキさんが出場する事になった。それが予選三日前の事。
右肩の骨にヒビが入って、Dホイールの運転は怪我が治るまで不可能。一時は遊星さんとジャックの二人で出るかという話になったのだが、アキさんの強い希望と、彼女に託すと頷いたクロウの意志で、空いた枠はアキさんに譲られたのだ。

そして迫る予選の日。
明日は早起きして、最終調整を手伝わなくては。


「じゃーん!見てください皆さん!」


ガレージに集まる皆の前で広げた大きな布には、星や光を纏うドラゴンが描かれている。
中央下には赤い文字で“5D's”。
私に出来ることは少ない。Dホイールの知識は殆どないから、ブルーノのように手伝う事は出来ない。
でも、こういう事なら得意だ。というか、こういう事でしかチームに貢献出来ない。


「遊星さんのスターダスト・ドラゴンをモチーフに旗を作ってみました。私、これを振って応援します!」

「ありがとうヒユラ」

「素敵な絵ね。あなたが描いたの?」

「はい!」


気に入って貰えたようで何よりだ。
見せてくれと此方に手を伸ばす遊星さんに旗を渡すと、双子ちゃんもブルーノもクロウも旗に寄っていった。


「ヒユラ……貴様ふざけているのか!?」

「な、なにがですか!?」

「俺のレッド・デーモンズ・ドラゴンはどうした!」

「ジャックのは描いてないです。でもアキさんのブラック・ローズ・ドラゴンをモチーフにした旗は描きました!」

「え?私のドラゴンを?」

「はい!」

「何ィ!?何故レッド・デーモンズ・ドラゴンではないのだ!!」


何故ってそれは、言ってしまえば“制作時間がなかった”としか言いようがない。
本当は赤き竜の痣を持つ皆さんのドラゴンをモチーフにした旗を全て作りたかったのだ。だが時間が足りなくて遊星さんとアキさんのドラゴンの分しか作れなかった。
ジャックにそれを伝えると頭を抱えられ、「呑気に治安維持局になど行っているからだ」と言われてしまった。
それに関しては許して欲しい。顔を出しに行く事は私の義務だ。
ついでに雑用を押し付けられるのも義務とセットである。


「それと、余ったものでこんなものも。これは双子ちゃんにあげます」

「わーい!ありがとうヒユラちゃん!」

「ありがとう!とっても可愛いわ!」


双子ちゃんに渡したのは小さな旗である。
イラストはクリボンとD・ラジカッセン。モンスターには“5D's”と書かれた帽子を被せている。
嬉しそうに旗を見て笑う二人に癒やされ、抱きついてくる二人を受け止める。


「そうだ、ブルーノにもあるんだ」

「僕に?」

「うん。でも私、ブルーノのデュエルを見たことがないから、どんなモンスターを使うか分からなくて。だから勝手ながら、私の使用モンスターを描かせて貰ったよ」


双子ちゃんの向こうで戸惑いながら私から旗を受け取るブルーノ。
布に描かれたモンスターの絵を見て笑顔を浮かべ、喜んで貰えたっぽいなと安心した。


「これは……」

「幻獣機ヤクルスラーン。ドラゴンっぽいかなって」

「幻、獣機……?」


ブルーノの表情が曇る。ど、どうしたんだろう。
じっと旗を見つめながら険しい顔をしている。
そんな彼の様子に疑問を抱いた皆が、ブルーノの手にある旗と私を見比べた。


「幻獣機か……聞かないカテゴリーだな」

「そうなんですよ、不思議ですよね」

「なんだそりゃ。ヒユラ自身も分かってねえのか」

「はい。目が覚めたらデッキケースにあって……」

「お前もブルーノと同じ記憶喪失か?」

「似たようなものですね」

「……ブルーノ。なにか思い出せそうなのか」

「わからない、けど……何か感じたんだ。言い表せないような何かを」


うーんと首を捻るブルーノとヤクルスラーンを見詰める遊星さん。
ブルーノの失われた記憶を呼び起こすヒントが私にはある……?
でも私はブルーノとはあの日が初対面だ。彼と私の繋がりなんてないのではないか。

色々あったが、予選前日はなにも無く平和に終わった。
さあ、いよいよ明日はWRGP予選大会。
楽しみで眠れないなんて、何年ぶりだろうか。


2017.01.06

戻る