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(79話)

朝早くからDホイールに乗って出掛けた遊星さんを見送り、私は朝の散歩に出掛けた。それが七時ちょっと前。
途中で朝食用にと菓子パンを買ったりして、帰宅したのが八時ちょっと前。
開け放たれたガレージのシャッターに驚きながら「ただいま戻りました」と顔を覗かせると、ジャックが振り返って「ああ」と出迎えてくれた。
珍しいな、ジャックが朝早くから起きているなんて。


「おはようございます。今日は早起きですね」

「目が覚めてしまってな。二度寝する気にもなれなかった」

「清々しい朝の空気は良いものです。これから毎日、起こしにいきましょうか?」

「余計なお世話だ。それよりヒユラ、金槌はどこにある」

「工具は机の隣です。私、朝食作ってきますね。今日はコーヒーですか、紅茶ですか?」

「紅茶を頼もう。アールグレイの気分だ」

「了解です」


ジャックともかなり会話が続くようになった。
私の問いに答えてくれるようになって、更にコーヒーを飲んでくれるようになって(味や香りは何度も文句をつけられた)、そしてついに、小さな事だが頼ってくれるようにもなった。
出会った当初ならば絶対に工具の場所を聞いて来なかっただろう。意地でも自分で探すか、クロウか遊星さんを頼るかの二択だ。因みに前者の場合はだいたい見つからず、私がさり気なくジャックの視界に置いておくのがお約束。

階段を登り、キッチンで朝食の準備を始める。
買ってきた菓子パンをオシャレなお皿に並べ、次に紅茶の準備。
棚に並ぶ数種類の中から、ジャックのリクエストであるアールグレイを手に取る。
小さなトレーにティーポットと角砂糖の入った瓶を置いて、食器棚からカップとソーサーを取り出してトレーに乗せた。

……遊星さん、朝っぱらからどこに行っちゃったんだろう。思い詰めたような顔で、「少し走ってくる」とDホイールと共にガレージを出て行ってしまった。
気分転換……なんてものじゃないのは私でも理解できる。


「はあ……」

「朝から辛気臭い顔してんじゃねーよっ」

「く、クロウ。おはようございます」

「おう、おはよう!」


クロウが起床し、時計を確認するフリをして内心また呆れ顔。
まさか溜め息を聞かれちゃうなんて。警戒心の薄い自分に呆れてしまう。こんなんだからいつもプラシドとルチアーノに馬鹿にされるんだ。


「お、美味そうだな。摘まんでいいか?」

「どうぞどうぞ」


なんだかさっきから下のガレージから変な音が聞こえるんだよな。
そんな事を考えながら、菓子パンの乗るお皿を差し出す。クロウは「サンキュー!」と嬉々としてパンを掴んだ。

紅茶も朝食も準備完了。クロウに朝食の乗ったトレーを持って貰いながらガレージに向かうと、階段上から見下ろした光景に、クロウと顔を見合わせた。


「どうしたんだよ、それ。そんなテーブルとイス、うちになかったろ」


クロウが指さしたのは、ジャックが腰掛けるイスとその前に置かれたテーブル。
金属板を繋ぎ合わせたような、お世辞にも綺麗とは言い難いテーブル。
木の板の切れ端、余った棒、それらを使ったイス。
三つあるイスのひとつに腰掛けていたジャックが此方を見上げる。私は「お待たせしました」とトレーをそのテーブルに置いてジャックに紅茶を注ぎ、気をつけながらテーブルから一歩離れた。
このテーブル、大丈夫かな……?


「残り物のパーツで組んでみた」

「お、お前も節約する気になったのか!」

「まあそういう事だ」

「いやあ良いことだぜ。これで向かいのカフェで散財する事もなくなるわけだ!」


クロウは大喜びだ。
確か、向かいのカフェ“ラ・ジーン”のブルーアイズマウンテンなるコーヒーは、一杯三千円の高級ブランド。それを好んで飲むジャックが今までブルーアイズマウンテンに注ぎ込んだ金額は……クロウ曰わく“思い出したくない数字”らしい。
クロウはジャックの作ったイスに腰を下ろし、持っていたトレーをテーブルに置く。
辺りを見渡しながらクロウは「遊星は?」と私に問いかける。


「早朝に外出しました」

「恐らく、NEWエンジンのテストだろう」

「NEWエンジンね……。あいつ、また徹夜したのか」

「みたいですよ。夜中にトイレに起きた時、ガレージの明かりが扉の下から漏れているのが見えましたし」


新しいエンジンの開発は今一つ上手くいってないみたいだし、徹夜も重なれば頭も働かなくなるだろう。
クロウは、開発しなければという心がプレッシャーになってるのではと、頬杖をついてパンを齧る。
それに言葉を返したのはジャックだ。新しいエンジンがないとWRGPで苦戦する事は目に見えていると、壁に貼られたポスターを見て冷静に言った。


「あー情けねえな。体力系の俺達には、あんまり助けられる事がねえしな……」

「残念だがそういう事だ」


ギギギギと、嫌な音が響いた。
直後、ジャックが作ったテーブルとイスがバラバラになって床に散らばる。
あちゃー……やっぱりこうなるのか。
幸い食器は割れておらず、ホッとしながらトレーを拾う。菓子パンは床に落ちちゃったけど、代わりの朝食はまだあるし、残念だけど諦めよう。まだ一口も食べてなかったのに。


「なんなんだよー!イスひとつまともに作れねえのかよ!」

「お前に言われる覚えはない」

「ジャックすごい!紅茶を死守した!」

「んなこと感心してる場合か!」


パンを拾い上げ、泣く泣くポケットから出したレジ袋に入れていく。捨てるなんてしたくないな。だからと言って床に落ちたパンを食べる訳にもいかない。また買ってこよう。
パンを片付け終え、後は散らばった金属板をなんとかしないとと、手を伸ばした時、ポケットに入っていた転移装置が震え出す。
呼び出しだ。行かなくちゃ。


「すみません、ちょっと外出してきます」

「おー、気をつけろよ」


何の用だろう。今日は治安維持局に行く日だから、お昼頃にはそっちに行くつもりだったんだけど。


2016.12.30

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