(77話+)
周りに花が舞っているように見えるくらいには、ルチアーノの機嫌が良いのが分かった。
ルチアーノは一番分かりやすい。鏡に映る自分と、その後ろに居る私を見てなんだか嬉しそうだ。
「へえ、なかなかの出来じゃん」
「私だって女だもん。こういうのは得意なんだ。……はいできた」
赤茶色の髪の毛は思っていたよりも柔らかく、指がスルリと通って気持ち良い。
ルチアーノの肩から胸に下がる一本の三つ編み。アカデミアの制服とその髪型、落ち着いた雰囲気。
振り向いたルチアーノが私を見上げ、「似合ってる?」と不敵に笑った。
「すごく似合ってるよ。なんだか知的な委員長って感じする!」
「キシシ!当たり前だろ!」
「あ、気をつけてよ?その笑い方と話し方。声は低めで、絶対にいつもみたいに笑ったりしないこと」
「言われなくたって分かってるさ。僕はお前と違って馬鹿じゃない」
酷いね、まったく。
苦笑いを浮かべながらルチアーノの側を離れ、鞄の中に教科書を入れていく。
うわあ、見たことないものばっかりだ。国語にも算数にもデュエルが持ち出されている。
……というかずっと気になってたんだけど。
「ここどこ」
「家だけど」
「見れば分かるよ」
「金持ちの息子って設定なんだよ。だから相応の豪邸を用意しただけさ」
窓から外を見ると、広い庭と生け垣の壁。
門は馬鹿でかい。あれって手動でやるやつじゃないじゃん。
床は赤いカーペットが敷かれているし、裏庭には噴水まである。
「使用人ひとりいないし。なんなら私、メイドやろうか!」
「使用人ならいるさ」
「え」
「つーか、ヒユラにメイドなんてやらせないよ。そんなリスク、わざわざ抱える必要ないし」
そっか……そうだよね。
ルチアーノのターゲットは双子ちゃんの片割れ。赤き龍の痣を持つ少女、龍可ちゃんだ。
彼女と私は既に顔を合わせている。変装しても絶対にバレないという保証はない。
「私も参加したかったな……」
「な、なんで落ち込むんだよ」
「……落ち込んでないよ。ねえ、私にも協力させてよ」
「その内ねその内。ホセだって言ってただろ」
私を慰める手は小さくて冷たい。
アカデミアの制服を着ている今のルチアーノの顔には、いつもある機械がない。
普通の人間みたいに見えるけど、その熱が人間ではないと、現実を突きつける。
「……危ない目には遭わせられないんだよ。ヒユラに死なれると困るのは、」
「困るのは?もしかしてルチアーノ?」
「ば、ばっかじゃないの?」
「ルチアーノ、そろそろ時間だ」
第三者の声は聞き慣れた低音。
でもそれを発した男は、私が見たことないような人間だった。
黒髪の執事。真っ赤な目はどこか優しい。
ルチアーノが振り返り、彼に「分かった」と返事をして私の手から鞄を持って行く。
「じゃ、ヒユラ。大人しくしてろよ」
「うん。気をつけてね」
「プラシド、僕を送ったらヒユラを長官室に連れてって」
「ああ」
「なんで長官室?」
「書類溜まってるらしいしさ。ヒユラ、ちょっと仕事してけよ」
「えー!」
ナチュラルにルチアーノは執事さんをプラシドと呼んだ。
ああなるほどね……彼らの変身、変装能力って本当に驚いてしまう。
はあ、まさか仕事を押し付けられるなんて。
災難だなと思いながらも、どこか楽しいと感じる自分がいる事に内心苦笑いを浮かべた。
2016.12.26
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