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ひみつ

夜中に目が覚めた。いつもならそのまま目を閉じている内に再び眠りにつくのだが、今日はなかなか寝付けなかった。
秒針がカチカチと静かな部屋にこだまする。
今何時なのかな。カーテン越しの光はぼんやりとしているが、何故だか異様に明るく感じた。

……散歩でもしてくるかな。

時計を確認。早朝4時。
まだ少し寒いだろうな。
上着を羽織り、Dシューズを探すが見当たらない。あ、確かガレージに置きっばなしだ。
部屋を出て、物音を立てないようにガレージに向かった。

軋む音のひとつひとつがやけに大きく聞こえ、そのたびにひとり「しー……」と口元に人差し指を立てる。
扉を開けてガレージの中に入ると、テーブルの所に人影をみつけた。
遊星さんだ。また徹夜だろう。
寒そうなタンクトップ姿で、資料やパーツが散らばるテーブルに突っ伏しすうすうと寝息を立てている。
私は近くにあった膝掛けを遊星さんの肩にかけ、端っこに置いてあったDシューズに履き替える。
行くか、と外へ繋がる扉に手をかけた時だった。


「こんな時間に外出か」

「わっ、遊星さん」


突然背中に言葉を受け、びっくりしながら振り返る。
遊星さんは顔を上げると、膝掛けをテーブルに置いて資料を纏めていた。


「目が覚めちゃったんで、ちょっと散歩に」

「そうか。なら俺も行こう。一人で出歩くにはまだ危険な時間帯だからな」

「え、」


遊星さんは上着に腕を通すと手袋を掴み、私にヘルメットを投げ渡す。
それを受け取りつつ、二人乗り出来るんですかと聞けば、「少し狭いかもしれないが、大丈夫だ」と頷いた。
Dシューズを脱いで普通の靴に履き替え、ガレージのシャッターをゆっくり上げた。


「どこまで行くつもりだったんだ?」

「えっと……郊外まで」

「随分と遠いな……」

「少し明るい所から離れたかったんです。……ここは、明るすぎるから」


遊星さんがDホイールを押して外に出すと、私は先ほどと同じように静かにシャッターを下ろした。
押したままポッポタイムを離れ、ひと気のない場所で遊星さんはDホイールに跨がった。


「流石に郊外は遠い。旧サテライト方面でいいか?よく知った場所だから、少し光のない場所も知っている」

「じゃあそこでお願いします」


遊星さんの後ろに跨がり、ヘルメットを被る。「しっかり掴まってろ」と少し振り向いた遊星さんの言葉に頷いて、その腰に腕をまわした。
エンジン音が空気を揺らし、まだ日のない中を突き進む。
まだ真夜中だ。公道はとても空いていて、街灯や電光掲示板以外の光は数えるくらいしかなかった。
顔や身体は遊星さんの背中で守られているけど、遊星さんのお腹にまわした手は別。
肌を刺す風に少しだけ寒いなと感じていた。

旧サテライト地区に到着したのは案外早かった。やはり道が空いていたからだろう。
スピードを落とし、左右を見渡しながら目的の場所を探す遊星さん。
ここら辺はまだ開発が進んでないらしく、街灯も少ない。時間帯的に人もいない。
港の近くでDホイールを停めると、遊星さんがヘルメットを脱ぐ。振り向き「着いたぞ」と言われ、私もヘルメットを脱いだ。
Dホイールを降りて真っ暗な海とその向こうを見つめる。
……思い出す。真っ暗な夜を。
破滅した世界にある人工的な光は、全部手元にしかなかった。
月とランプが夜を照らす光だった。


「……どうかしたのか?」


遊星さんがヘルメットをDホイールに置いて隣に来た。
同じように彼方を見つめて何を思っているのか。遊星さんはあまり顔に感情が出ない人だから私にはわからない。


「遊星さんには秘密がありますか?」

「秘密?」

「はい。誰にも言えない重大な秘密。誰かを傷付けた事があるとか、人を殺した事があるとか」


私にはある。言えない事がたくさんある。
言えないという対象は遊星さん達であったり、ゾーン達であったり様々だ。
見上げて遊星さんに問うと、やはり無表情。顔に出ない人はやりづらい。


「言っちゃいけないんです。言えばどうなるかわからないから。失望?幻滅?いや、なんというか、マイナスな気持ちを抱くんだろうなって。それが恐くて言えない」

「……」

「お世話になっているのに、彼らは包み隠さず私に話して、接してくれているのに……私は嘘をついて、隠して、秘密を……」

「……誰にだって秘密はあるさ。だから自分を責める必要はない」


遊星さんが笑った。
微笑みは優しくて、なんだかアポリアに重なる。


「言えば楽になるなんて軽率な考えは捨てるんだ。重大な秘密は、言う方も聞く方も覚悟が必要だ。打ち明ける覚悟、受け止める覚悟、それを互いに理解した時。絆が繋がった時、言えばいい」

「絆、」

「ああ」


それは、難しいことじゃないだろうか。
絆なんて遊星さんは簡単に言うけれど、私には無理だ。

風が頬を撫で、水平線の向こうから顔を出した始まりの輝きが私たちを照らす。
眩しさに腕を翳すと、遊星さんは「帰るか」と私に声をかけた。

そうですね。道が混む前に、皆さんが起きる前に、帰りましょう。

秘密は無理に打ち明ける必要はない。
遊星さんが言ったからだろうか。心も体も軽くなった気がした。


2016.12.25

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