×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
(74話)

ステーキなんて何年ぶりだろうか。
こんなに美味しかったっけ。分厚い肉にナイフを滑らせ、食べやすく切って口に運ぶ。
モニターは会場の様子を映している。プラシドはもうすぐで戻ってくるだろう。

豪華な食事が口に入る度に、頬が落ちそうになる。
会場の様子を黙って見詰めるホセとルチアーノが反応を見せた。


「あ、デュエルだ」


ルチアーノがぽつりと呟き、私もモニターを見た。直後、扉が開いてプラシドが入ってくる。
おかえりと声をかけると短い返事が帰ってきた。

モニターには遊星さんと、誰か知らないひと。
こんな日に誰とデュエルをしているんだろう。
プラシドはソファに腰を下ろし、黙ってモニターを見詰める。

……ちょっとまって、これは。
TGってモンスターを私は知っている。このDホイーラーは、まさか。


「なに?どうしたのさヒユラ」

「……なんでもない」


動揺が態度に出ていたらしい。
とっさに取り繕い、食事に意識を集中させる。
相手フィールドに並ぶ二体のシンクロモンスターは苦戦するだろう。私は一度もTGに勝ったことがない。
遊星さんは私と違って弱くはないから、きっと勝つだろうけど……。

遊星さんの敗北を案じながらステーキを口に入れた時だった。
画面が突然光に包まれ、なにも見えなくなった。
あまりの眩しさに腕を翳すと、ホセが大きな手で光を遮ってくれた。


「い、いったいなにごと!?」

「狼狽えるな」


光がおさまるのは少し時間が経ってからだった。
再びモニターがデュエルを映した時、二体だったシンクロモンスターは一体に、しかも別のものになっていた。
……スピードの中でしか行うことが出来ない究極の召喚方、アクセルシンクロ。それを教えてくれたのは私達の仲間であるアンチノミー、ただ一人だ。
まさかそんな、はずは。

デュエルは遊星さんの勝利で幕を閉じた。
アンチノミーは手を抜いたのだ。遊星さんがこれから己の力で進化していく事を信じ、確信し、二言三言交わして走り去った。

ルチアーノは決着の付き方に舌打ちをし、つまらないとボヤいた。無駄な期待をしたと。
確かにこのデュエルでサーキットは現れなかったし、見ていたルチアーノからすれば不満が出てしまうのは当然と言えるだろう。
だがホセはそれを否定した。詰まらなくはないと。


「途中なにも見えなくなったけど、なかなか面白いデュエルだったよね」

「はあ?ヒユラもホセと同意見かよ」

「うん」


ルチアーノはまた舌打ちをして、ため息と共に私の膝に頭をのせる。
私は食べ物ががルチアーノに落ちないように気をつけながら食事を再開。


「これでまた新たな扉が開かれた」

「なにそれ」

「未完成であるが故に生まれる人間の無限の可能性が」


未完成だからこその可能性、か。面白い。
遊星さんならきっと……。


2016.12.25

戻る