有栖川帝統
ぼんやりしていた。コンビニ弁当を2つも買ってしまった。そして2つも温めてもらっていた。
繁盛期で疲れも溜まっていて、ようやくやってきた休みが今日。間違って2つもお弁当を買ってしまったこととか、購入した時の記憶がほぼないこととか、そういう自分に乾いた笑みがこぼれる。
本当に疲れているんだなぁと溜息を吐きながら歩く帰り道は酷く孤独なものだった。
「腹減ったぁ〜」
自宅は公園を挟んだ向こう側にある。とぼとぼと歩いていると、ベンチで仰向けになってボヤく見知った男が目に入った。
「あ、ニートだ」
「ニートだけどニートじゃねえし」
「おお、意外と元気そう」
声をかけると有栖川くんが起き上がり、子供っぽく不満そうな顔を浮かべた。
年齢もひとつふたつしか違わないこの男との出会いは簡単だ。空腹で倒れている時に優しく声をかけてやっただけ。家に上げたし、ご飯も食べさせたしお風呂も自由にさせた。お礼はカラダでと言ってきた時は殴った。そういうのは間に合っている。彼氏はいないけど。
「ねえ、お弁当ひとつ多く買っちゃったんだけど食べる?」
「マジ!? 食べる!」
表情がパアッと明るくなる。まるで新しいオモチャを前にした少年のようだ。
差し出したお弁当を受け取った有栖川くんが私を見上げて言う「サンキューな!」という、当たり障りのないお礼の言葉。不思議と私にも笑顔が伝染する。
「名前は優しいよなぁ」
「まさか」
「この流れなら言える……五千円貸してくれねぇ?」
「お断りしまーす」
「くっそー!やっぱりかー!」
こうして誰かと食べるのは好きだ。その相手が有栖川くんなら尚更。
私、彼のこと好きなんだろうなぁ。でもまあ、絶対にこの気持ちは言ってやらないけど。