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- ナノ -


黒死牟
※12巻を読んだので
※捏造しかない
※モブ視点



鬼が人間を飼う話は稀に耳にした。
食物連鎖の頂点に立つ者が己の下にいる者を飼うのは当然の摂理。人間も犬を飼う。躾ののちに猟犬にするも良し、ただただ愛でるもよし。
鬼が人間を飼うのも似たようなものだ。
彼もそのひとり。

「ハッ!も、申し訳ありませんご主人様!」

「……気にするな」

かの鬼の名は黒死牟。無惨様率いる上弦の壱。そしてここは黒死牟様が根城としているとある屋敷だ。
おれは世話係。そんで黒死牟様のお背中に寄りかかって眠っていたのは名前。こいつはただの人間だ。
名前は眼が見えない女で、去年の……いつだったかな。黒死牟様が拾ってお帰りになられた時は驚いて言葉が出なかった。
六つある恐ろしい瞳を伏せ、怯える名前に己の着物を被せて……。思い出すたびに嘘みたいだと考えるのだ。
この目の前の光景が嘘ではないとおれに何度も再確認させてくれるが。

「ここへ」

黒死牟様が手を差し出すが、名前には当然それが見えない。
だが一年も共に過ごしているからだろう。声色ですぐになにかを察し、名前は「はい」と答えて手を伸ばす。数回ほど黒死牟様の手をかすり、ようやく重なる手。黒死牟様はそのまま名前の手を引き、名前はされるがままに身を委ねる。

「私が、恐くないか」

またその質問ですか黒死牟様……これで何回目だろうか。二、三日に一度くらいの頻度で聞いている気がする。

「私に優しくしてくださったのは貴方です。恐いわけがかりません」

で、その返事もいつも通り。
今日もこの屋敷は平和だ。黒死牟様がいて、飼われている名前がいて、世話をするおれがいて。このまま何もなければいいけど、黒死牟様もおれも鬼だし、名前は人間だし……名前はいつか死ぬんだよな。黒死牟様がどれだけ名前に好意的な感情を抱いているのかわからないけど、見ている限りじゃ血は与えなさそうだし。

六つの目で名前を見つめるが、眼が見えない名前にそれが映ることはない。多分それが一番いい。話して触れてってのが一番いいんだ。視界から得るものってのは、互いに向いていた好意を塞きとめるきっかけを作りかねないからな。