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深海王
※ネクロマンサー夢主



「雨がやみませんね」

「今日は天気予報を見てたわよね。どうして忘れちゃったの?」

「どうしてでしょう……深海王さんと話すのに夢中になってたんでしょうか」

「あーら、私のせいにするの?」

「いえ、決してそんなつもりじゃ」

急遽出動要請が出たジェノスさんに夕飯の買い出しを頼まれ、受け取ったメモとエコバッグを手に家を出たのが一時間ほど前。
今日は朝から引き上げていた深海王さんに同行してもらっていた。贄となる髪を少しあげて、霊体に質量を与える。あとは軽く変装をしておしまい。
深海王さんは身体が大きいし、なんか服の裾とかから色々見えてるから変装しても人間じゃないなって周りの人は分かっているだろうけど、誰も何も言ってこないし干渉もしない。警戒はしてるみたいだけど。
何より私は、一応ヒーロー名簿に登録されている正式なヒーロー“ネクロマスター”だ。ヒーローが危険を街に持ち込むわけがないし、市民を危険にさらすこともない。

メモに書かれたものを買い、重い荷物は深海王さんに持ってもらい、いざZ市の自宅へ帰ろうという時に、雨。朝のニュース番組ではお天気のお姉さんが1日の空の表情を教えてくれるのに、ちゃんと見ていたはずなのに、傘を忘れてしまった。少し前にもこんなことがあったなぁと思いながら見上げる曇り空。すでに雨はアスファルトに水たまりを作り、しばらくやみそうないことを教えてくれる。

「どうする?私がお迎えを呼びに行ってあげてもいいわよ」

「距離が遠すぎます。ボロスさんとの時は鎖の届く範囲に現在地と自宅があったんですが、今日は……」

「あらそう」

濡れて帰ろうか。そう考えた直後、深海王さんが「ねえ」と私の肩を突いた。

「あれ、名前は使えない?」

指差した方向に目をやると、公衆電話がポツンと設置されていた。
そうか、電話。確かサイタマ先生の携帯の番号を教えてもらっていた。数字を覚えるのが苦手で、どこかに書いて持ち歩いていたはず。
外套のポケットを探すが見つからず、服のあらゆる場所を探しても……見つからなかった。

「あの、濡れて帰りましょうか。夕飯の材料は袋詰めされてますし。それに、深海王さんも雨にあたった方がいいですよ。水浴びとか一切してませんもんね」

「私は構わないけど、名前が風邪をひいちゃうわ」

「私は大丈夫ですよ。さあ走っていきま」

「やめとけって」

雨の中を走って帰ろうとした瞬間、聞き慣れた声がして足を止めた。
サイタマ先生だ。傘をさし、空いた手には私が使っている傘がある。
嬉しさのあまり先生のもとへ走ると、後ろにいた深海王さんが深いため息を吐いた。

「傘ちゃんと持ってけよ。次忘れたら折り畳み傘持たせるからな」

「はい!」

サイタマ先生から傘を受け取り、深海王さんのもとへ戻って傘を広げる。身体が大きい深海王さんには小さすぎる傘ではあるけど、「ありがと」と笑って身を屈めてくれる。そういうところ、すごく好きだ。

「帰るぞ」

「今行くわ」

サイタマ先生に家の方角を指され、深海王さんが私を片腕で抱き上げる。

「これなら私も傘に入れる」

「な、なるほど!」

たしかにこの高さなら深海王さんも傘に入れる。まあ、頭と私がいる方の肩だけしか入らないけど……。
それでも彼はなんだか気分が良さそうで、私も嬉しくなる。

「……妬けるわね」

深海王さんが小さな声で呟いたその言葉の意味があまりわからなかった。