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ボロス
※ネクロマンサー夢主

▼触れるとき

ボロスさんは宇宙人で、サイタマ先生と戦うために地球にきて、サイタマ先生と死闘を繰り広げ、その末に倒されて亡くなってしまった。
彼の目的は深海王さんや地底王さんのような“征服”ではなく、純粋な戦闘意欲……“強い人と戦いたい”というものだったので、それが達成され死亡し、再びこの場所へ呼ばれた今は、とても大人しく温厚だ。もともと気性が荒い人ではなかったようだけれど。
だからこそ私は彼を優先して引き上げる。髪の毛を一定量渡し、幽体に質量を与え、お買い物や炊事に洗濯に掃除などを手伝ってもらっている。彼は案外すんなりとなんでも請け負ってくれてとても助かっている。
でも、ただひとつやめてほしいことがあった。

「っ!?」

『……いい加減、慣れたらどうなんだ』

「で、できませんそれは」

先日のヒーロー活動中に破けてしまった外套を縫って直しているとき、そっと後頭部を撫でられる。後ろからなにかをされるという行為に、自分でも驚くほど……なんというか、ゾワゾワ? 恐怖とも驚愕とも呼べる感覚が襲い掛かる。ので、とても苦手なのだが、ボロスさんはなかなかやめてくれない。
強く物事を言うのは得意じゃない。それに“友人”に命令はしたくない。
ボロスさんは頭がいいお方なので私が後ろから急に触られる事を苦手としていることはわかっているだろう。それでも続ける理由はなんだろうか。せっかくだから聞いてみようかな。

「急にはやめてくださいね」

『言えばいいのか』

「そ、そう、ですね……。あの……ボロスさんはどうしてそんなに頭の後ろを撫でてくるのでしょうか」

針を持つ手を置いてから振り返り、身体の透けていないボロスさんを見つめた。依然として頭には死者であることを主張する三角巾がついているが、着ているものは普通の服で、それがまたこの空間に異様な雰囲気を漂わせる。
ひとつしかない澄んだ瞳は、一度考えるように伏せられ、数秒後に瞼が持ち上がる。大きな目に反射する私の表情は少し戸惑っているようにも見えた。

『そうだな。……まだ、かと』

「え、」

『まだ触れられると、そう確認したいのかもしれない。正直に言うが……俺自身も何故触れたいのか、何故確認したいのか、わからない』

意外な返答に、どんな反応をすればいいのかわからなくなった。

『ただ……効果が切れてお前の頭を撫ぜる手がすり抜けた時、不思議と虚無感が俺を満たしていく』

己の手を見つめてそう呟いたボロスさんの声が、とても静かで、とても低くて。
私はボロスさんが抱いている感情を知っている。
裁縫道具と外套をテーブルに置き、ボロスさんに向き合って膝立ちになり、胡座をかく彼の頭を包むように抱きしめた。身体はすり抜けることなく、しっかりこの腕の中。

「私、ボロスさんを一番頼りにしてます。私は非力ですが、ボロスさんも私を頼ってくださいね」

逞しい腕が背中に回された直後、腕の中でクツクツと笑ったのがわかった。

『言っておくがゲリュガンシュプ曰く、俺は甘えるのが下手だそうだ』

「そんな気はしてます」

『この虚無感は、人間界では“寂しい”と言うらしい』

「知ってました」

『俺はサミシイのか。お前とこうして触れ合える時間が長かったせいで、触れられなくなる瞬間が嫌なのかもしれない』

「ではこれからは地上にいる限りは質量を与えますね」

戦闘のことばかり考えてきたからか、それ以外の感情は疎く……というより、持ち合わせていなかったの方が正しいか。
人間と違った硬い髪質に苦戦しながら頭を撫でると、ボロスさんは一息ついて私の名前を呼んだ。

『死後に成長するとは、可笑しな話だ』

そうですね。