白血球1146番
※夢主も白血球
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男性ばかりの職場とは聞いていたけれど、思っていたよりも男性ばかりで驚いた。女性型の白血球が見当たらない。というより、いない。
私もれっきとした“白血球”なのだから、戦う力も細菌の知識もちゃんとある。他のひとたちに勝ることはなくとも劣ることはないだろうけど。
「で、俺たちはこのナイフで……って、聞いてるのか?」
「は、はい。聞いてます、すみません」
このひとは私の教育係……1146番さん。片目隠れてるし、目つきも相当悪いけど、優しい雰囲気と仕事に一生懸命なのは伝わってくる。声も落ち着いていて心地いい。背が高くて少し見上げてしまう。こういう、男性型と女性型の差を感じる瞬間に少しだけときめいてしまうのは可笑しいだろうか。
とても真剣にナイフによる戦闘の極意と、私たち白血球の主な1日の動きを教えてくださった。
途中、同じ白血球である先輩方とすれ違ったりした。皆とっても気さくで、馴染みやすい職場だなぁと、1146番さんと同僚の方たちの会話を聞いていてそう思った。
1146番さんの説明をメモしつつ、彼の背中を追いかける。最初に言っていたけれど、体内は本当に広くて迷ってしまいそうだ。
忙しなく行き交う色々な細胞たち。箱詰めされた酸素を運ぶ赤い服のひとは赤血球、小さくて可愛らしいのは血小板……細菌と戦う細胞はあまり見かけない。それもそうか、だって警報とか鳴ってない、……。
「ぎゃあ!?」
急にけたたましく鳴り響く警報に耳を塞ぐ。なんだなんだ、噂をすればなんとやらってやつなのかな!?別に細胞のことなんて口にしてないよ!?
「……初日にこれか。まあいい。これも勉強だしな」
「あ、あ、あの1146番さん、戦闘は」
「今日は職場を見て回るだけだ。だから下がっていろ」
そう言って1146番さんはナイフを抜いた。私を背中に庇い、低く構える。
目の前にある彼の背中の向こうに見えるのは、異様なかたちをしたものたち……細菌がいた。
「ひっ!?」
「落ち着け。すぐに片付ける」
「で、でも1146番さんだけでこの量を相手にするんですか!?」
「あぁ」
クールに返事してるけどあの、本気ですか……。白血球は細菌を退治する役割を持っているのは確かだ。でも、でも……。
「この量が相手だ。守りきれる自信はない。お前も白血球なら、わかってるな?」
いざという時はナイフを抜けという事ですね……。
メモをポケットにしまい、ナイフの柄に手をかけておく。なんで配属初日にこんな目に……まあ、これも経験だ。やるしかない。
「1146番さん、ナイフはもっ……ちょ!?」
「うおおおおお!!細菌ども!!俺から逃げられるとおもうなよおお!?」
「き、キャラ変わりすぎじゃないですかね……」
グサグサと細菌に容赦なく突き立てられるナイフ。返り血が真っ白な白血球さんの全身を汚していく。
うわぁ……という言葉が自然と口から漏れた。思ってたんと違う……って感情。もっとこう、戦闘はスマートにやるものだと思っていた。だいぶ野蛮だった。
「あ、あの1146番さん」
「死ねぇ!!」
「私、戦うって決めた意味ないです」
「オラどうした!!かかってこい!!」
「1146番さん……」
なんというか、仕事熱心なお方だなと思いました。
配属初日に細菌と遭遇したけど、全部1146番さんがなんとかしてくれました。覚悟を決めてナイフに手をかけたのに意味なかった。
真っ赤になった1146番さんが振り返って「怪我はないか?」と聞いてきましたが、それはこちらのセリフですよ本当に。