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- ナノ -


芥川龍之介(文スト)
※微グロ?



手の中に残る確かな感触が、先程落ち着いたばかりの僕の胸を再び昂らせる。
一度深呼吸をして己の胸の奥で昂ったものを鎮め、食器を持ち直してスープに口をつけた。
味付けは悪くない。匂いもだ。具にスープが染み込み柔らかくなっているのもまた良い。
スープを置き、口元を軽くナプキンで拭う。唇についていた微かなスープがナプキンに吸収されて赤い染みを作る。それは新品同様の真っ白なナプキンに良く映えた。

メインの乗る皿を寄せ、新しくナイフとフォークを手に取る。材料の形があまり良くなかった為、肉の形はかなり見栄えが悪い。上から見れば楕円形だ。だが周りに添えられた白い筒状の飾りや、光を反射して光る鱗に似た飾りのお陰で豪勢なものに見えはするだろう。真っ赤なソースをかけて肉をナイフで二つに割れば、赤みのある肉の断面にソースが流れ落ちていく。
嗚呼、なんと芳醇な香り。そしてこの舌触り。これ程までに美味いと思った事があるだろうか。

「芥川さん」

僕の食事に水を指すとは、随分と生意気になったものだ。
口の中にあった肉を飲み込みナプキンで唇についたソースを拭き取ってから、テーブルの向こうに立つ名前に目をやった。

「なんだ」

「それ、美味しいですか」

僕が不機嫌である事は理解している筈だ。ここまであからさまな態度を見せるのは久し振りだ。
場の空気も、今ここで僕が愉しんでいるという事も、奴の小さな脳では理解できないのだろう。

「実にな」

名前の至極単純な、それでいて聞くのも無駄である質問に頷けば、名前は少しだけ表情を強張らせ、困惑を隠せないとでも言いたげな雰囲気を出した。

「でもそれ、私の左腕ですよ」

だからなんだというのだ。