天童覚
※からかい上手の天童くん
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清々しい春の風を浴びながら登校し、廊下で友達とすれ違って挨拶を交わす。クラスメイトと途中で合流し、談笑しながら教室へ足を踏み入れ……ようとしたのだが、一緒に歩いていたクラスメイトに引き止められてしまった。
「名前、今日は何の日か知ってる?」
「?」
「天童の誕生日だよ。知らなかったの?」
「え、そうなんですか?」
クラスメイトが“アンタが知らないなんて意外”とでも言いたげな顔で私を見つめる。
誕生日、今日だったんだ。知らなかった。天童くんは滅多に自分のことを話さないし、私が聞いても「あー俺のことは別にいいよ。それよりさぁ」って強引に話を変えてくるから。知られたくないのかななんて思ったりしていた。
私は知らないのに、クラスメイトは知っている。ちょっとだけモヤモヤしてしまう。
「まあいいや。知ってようが知らなかろうがやろうと思ってた事だし」
そう言って彼女が取り出したのは、ピンク色のリボンだった。
意味深な笑みを浮かべて私の手を取ると、サササッと私の左手をラッピングしてしまった。
なにをしているのかわからないままの私を無視しつつ手を引き、クラスメイトが「おっはよー!」と元気な挨拶とともに教室へ入っていく。
クラスの中心である彼女の挨拶に応えるクラスメイトと天童くん。彼の机には既に、いくつかのプレゼントが置いてあった。
「天童!あたしからアンタに誕生日プレゼントあげる!」
「エッ、なーに?あーちんが俺にプレゼントなんて珍しいネ。去年はくれなかったのに」
「去年は知らなかったんだから仕方ないじゃん!ほらほら、喜べよ!名前でーす!」
「わ、」
背中を押されて前に出ると、天童くんがいつもの読めない表情で私を見上げる。なんとも言えない恥ずかしさに押しつぶされて小さく消えていく朝の挨拶を彼はしっかり拾ってくれた。
ニッコリと笑みを浮かべて「オハヨ」と返してくれる。今日も天童くんはかっこいい。
「ちゃーんとラッピングしてある〜!カワイー!」
「あ、あ、あの、お誕生日おめでとうございます、天童くん」
「ありがとー!」
リボンが巻かれた左手をとってはしゃぐ天童くんと、なぜか得意げなクラスメイトにただただ困惑する。
「苗字さんが誕生日プレゼントかぁ……ってコレ、苗字さんは了承してるの?」
「……してますよ。誕生日が今日だって知らなくて、プレゼントを用意できなかったんです。だから、ええと……私が、プレゼントという事で」
誕生日プレゼントが私……なんて、少女漫画で見たシチュエーションを、天童くんが喜んでくれるだろうか。
恥ずかしくて彼の顔を見ることができない。
「マジで言ってるの?」
真面目な声で問う天童くんの言葉に頷く。
「じゃあさ……今日は練習ないから、放課後に俺とデートしてよ」
「で、デート?」
「しよ?」
悪戯が上手くいった子供みたいな表情で私の顔を覗き込む彼と目が合う。
大きな両手で包まれた私の左手、それから頬に熱が集まるのが自分でもわかった。
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さとりんハピバ!