ハーネス第一小隊と東郷くん部隊に緊張が走る。
隊長方が作戦を練っているのをスズネと聞いていたら、東郷くんの後ろにいたロイくんが挙手をして前に出てきた。
「すみません。僕とアカネから、作戦プランに対して提案があるのですが……」
「それを決めるのは小隊長である我々です。君たちに、こちらの仕事に口出しされるのは心外ですね」
「東郷くん、そんな言い方ないんじゃない?小隊長なら隊員の意見を聞いてあげようよ」
「あなたにも口出しされる謂われはありませんよ、槙那さん」
き、キッツー!言い方に棘しかない!
私なら即「こんな小隊やめてやる!」ってなるな!
あんな言い方されて嫌じゃないのかな。
ロイくんを見ても篠目さんを見ても平然としてる。慣れか。慣れなのか。
「……これがお父様のご判断だとしてもですか」
篠目さんが静かに言った言葉に東郷くんは目を見開いた。
お父様?なんじゃそりゃ。
「どういう事や?なんでリクヤのオトンが出て来るん?」
「僕たちは、リクヤ隊長を守るためにこの学園に送り込まれて来たのです。隊長のお父様、東郷儀一総理からのご命令で」
え、は……!?東郷くん、総理大臣の息子さんなの!?
全く同じ反応をした私達。
その様子に眉を寄せ、こめかみに汗を滲ませた東郷くんが、ロイくんに振り返り「それは機密情報のはずですよ」と焦ったように言っていた。
「なぜこんな時に話すのですか」
「こんな時だからこそです。これから先はデスフォレスト攻略作戦が控えており、更に戦況が厳しくなる事が予想されます」
「それにこれまでの戦いを通して、僕たちは確信しました。第一小隊の皆さんが、信頼に足る実力と人格を備えた方々だと」
東郷くんを説得するように話す篠目さんとロイくん。
一瞬だけこちらを見たロイくんが、優しく微笑み「さっきはありがとうございます」と小声で言ってくる。
多分そのお礼の理由は、隊員の意見も聞けと助け船を出した時に対するものだろう。
「何を試していたのかは知らないが、認められたようだな。だからこの情報を俺達に?」
「はい、その通りです」
東郷くんが東郷儀一総理の息子さん……その情報、私にとっては大して重要じゃない気がするな。
へえ、総理大臣の息子なんだすごいね!……ぐらいにしかならないと考えちゃうのは、楽観的過ぎるからだな。多分。
「ひとつ、教えてくれないか」
カゲトラさんが声のトーンを落とし、胸の前で腕を組んだ。
「戦闘報告書を見る限り……これまでジェノック第三小隊は、数多くのプレイヤーがリクヤのLBXを守るために犠牲になってきたようだ。お前達は一体何を守ろうとしているんだ?」
カゲトラさん、なかなか鋭い。
知られると不都合があるのか、東郷くん達は言いよどみ、黙ってしまった。
なにか大きな隠し事をしている。それは確か、だね。
ロイくんがぎゅっと拳を握り、カゲトラさんを真っ直ぐ見据える。
「それは……リクヤ隊長のLBXに隠された、パラサイトキーです」
「なっ……ロイ君!」
「パラサイトキー?」
パラサイトキーってなんだ。寄生する鍵?ウイルスかヤバいプログラムかなにかかな?
東郷くんはロイくんに向き直り「どうして……!」と責めている。
そんなに知られちゃマズいことなのか。
「パラサイトキーとは実体ではなく、プログラムだと聞いている」
「海道先生、ご存知なのですね」
ジンさん、聞いてたんだ。しかもパラサイトキーを知ってると。
予想的中だ。プログラムみたいだね。
ジンさんの説明曰わく、セカンドワールドに三つ存在し、それぞれどこかのLBX内に潜んでいる。
全てを揃える事で、セカンドワールドのシステムを管理しているエリア、“ロストエリア”に入る事が出来る……らしい。
そしてそのパラサイトキーをバンデットが狙っていると、ロイくんが言った。
確かに、噂に聞くバンデット出現エリアは、だいたいロシウスとジェノックの領土だ。
奴らはパラサイトキーがだいたいどの辺にあるかをすでに理解している……?
「ロイくん、篠目さん。なぜ君たちはパラサイトキーの事を?これまでこの事は、警護役の生徒には知らされてなかったはず……」
「僕たちは総理から直接命令を受けました。“信頼できる仲間をつくり、パラサイトキーを死守せよ”と」
「どうか皆さんで隊長を……リクヤさんを守ってください。お願いします!」
少しずつ状況が飲み込めてきた。
とりあえず東郷くんを守ればいいのね。私は身を挺して……ロストしてまで守るつもりはないけど、それなりに庇ってみせよう。
もうすぐでウォータイムが始まる。
急いでコントロールポッドに乗り込み、CCMをセット。ヘッドセットを頭に着けて、色々調整をする。
黄緑色の待機画面に囲われる中、右のモニターに現れるミゼル。
『繋がったね』
「なにが?」
『バンデットのコアボックスを貫く攻撃。あれはパラサイトキーを探すための一動作だ』
「スキャンしてたって?」
『ああ』
なるほど……コアボックスに手を突っ込んで、内側からスキャンをかける訳だ。
だからあんな恐ろしく惨い攻撃を仕掛けてくるんだね。
『安心しなよ。キミの機体にそんなものは入ってないから』
「知ってるよ!」
《アユリ、誰と通信を繋いでいるんだ!ちゃんと作戦を聞いているんだろうな!?》
「聞いてますすみません!」
『ふふ、キミは馬鹿だね。本当に』
2016.05.29