「んがっ!?」
「ぷくく……おはようございます!」
「ね、眠ってへんで!ちゃんと起きとったって!」
「完全に寝てたよ……」
「なんや疑っとるんか?じゃあ証明したる!教室まで競争や!」
「え、ちょまっ……私靴履いてな……」
「よーいドン!」
「ズルい!」
なんというスピード感。私まだ靴履いてないのにコレである。
かなり遅れを取って、もう勝ち目はないだろう。
スズネは足が速い。私は体力もないし、足も速くない。
うぇええ……朝からダッシュなんていやだあぁあ。
ヘロヘロのまま教室まで走ったのはいいが、もう二度とやりたくないよ……!
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一日の最後の授業は理科。ベンジャミン先生が細かい式や文字を黒板に書きながら説明する。
「温度が一定なら気体の体積は圧力に反比例するから、公式に当てはめて……」
全くわからない……こりゃ放課後はカゲトラさんに頼んで補習授業してもらわないと。
バン兄ちゃん、私ここに入学して楽しいLBXバトル生活を送ってるけど、勉強は苦戦してるよ。
必死に黒板の内容をノートに写していると、隣の席から軽快な機械音が聞こえてくる。
スズネだ。CCMをマナーモードにしてなかったな。
「やばっ」と慌ててCCMの電源を切るスズネを、ベンジャミン先生が見つけてわざとらしい咳払いをする。
授業中はCCMの電源は切っておくようにとそれだけ言って再び黒板に振り向いたのだが。
「おっ?俺様もメールだ」
次は無敵くんのCCMが鳴った。電源を切ることはしなくても、せめてマナーモードにはしてくださいな。
「あら?わたくしにも」
「僕にも来てる」
「俺もだ……」
そこかしこから声が上がり、もしかして私にも?と机の中に入れていたCCMを出す。
画面には手紙の形をしたメールを読むミゼルの姿が映っている。こらこらこら、それ私宛じゃないですかミゼルさん。
「クラス全員のCCMにメールが来ている訳か。一体、何事だ?」
鴻森くんがCCMを取り出し、メールを確認する。
ミゼルは手紙をこちらに向け、私が声に出さずに読むと同時にカゲトラさんが読み上げた。
「“放課後、司令室に集合”か」
「突然の招集、なんだろうね」
皆がざわつき、授業にならないんじゃないかと思っていると、授業終了を知らせるチャイムが鳴った。
ベンジャミン先生が、教室に持ち込んだ教材を持って教室を出て行く。なんかごめんなさいねベンジャミン先生。
「カゲトラさん、これどう思いますか?」
「ドルドキンスが授業時間を無視してまでメンバー全員に招集をかけるなんてな。なにか大切な話があるのだろう」
「いや〜、ウチの着信音が教室中に響いた時はさすがに焦ったわ〜。先生に怒られるって内心ビクビクもんやった!」
「あははは!スズネが説教される事なんて日常茶飯事じゃないか!」
「なんやて〜?……いやまあ、実際そうなんやけどな……」
ハーネスの皆が一斉に教室を出て行く。司令官のジンさんからの招集メールだ。
みんななにか重要な話があるんだと、そう確信していた。
2016.05.27