通信から聞こえてくるジンさんの声。
今日はミゼルがいないから会話もしないし、全ての仲間と通信を繋げている。
《おや?スズネ、いつもの君らしくないな。普段なら俄然やる気になるはずだが》
《……あんたはいつも通りやな。ホンマ、嫌みなくらい》
《当然だ。私達がやることはただ一つ。与えられた任務を遂行する。それだけだ》
鴻森くんとスズネのやりとりに、なんともいえない気分になる。
スズネ、日暮先生とジンさんにはぐらかされた事気にしてるんだ。
多分理由はそれだけじゃないだろうけど。
《ここを足掛かりとし、ロシウス領地に本格侵攻する。相手は世界最大の強国だ、気を引き締めて行け》
「了解!」
みんなの返事が聞こえてきて、レバーを握る。
いつもの癖で右側を見るけど、やっぱりミゼルは居ないわけで。
かなりやられてるな私。大丈夫かな……。
まずグリーンバース湖を目指すのは良いが、スズネも乗り気じゃないし、私も保険と言う名のミゼルがいないからそうそう前に出られない。頼りっぱなしだな、笑えるよ。
カゲトラさんの指示で散開するハーネス。今回はどうやら小隊ごとに動くようだ。
遠くを見張るスナイパーは第四小隊が狙い撃ち、第三小隊はスピードを生かして敵を翻弄、撃破。
第二小隊は私達と正面突破。
銃を強く握り、辺りを今まで以上に見渡しながら進んだ。
《アユリ、大丈夫か?》
「はっ!なんでしょうか!?」
《いつもより元気がないなと思ってな》
「そうですかね?そう見えたのなら、気をつけます」
《頼むぞ。アユリとスズネは、第一小隊の主砲なんだからな》
カゲトラさんに心配され、しっかり前を見据える。
スズネは乗り気じゃなくともちゃんと戦ってるんだ。一番新人の私が一番頑張らなきゃいけないのに。
ミゼルがいなくとも、ミゼルがつけてくれたスキルや鍛えてくれた腕がある。
射撃だって、何度もやり直しを食らって練習を積み重ねたんだ。
ミゼルが私にやってきた鬼畜訓練に比べれば、ウォータイムの戦いなんて……!
『ほら、後ろががら空きだ』
ガチャリとレバーが勝手に動き、私のDCオフェンサーが背後へと銃を向けた。
直後放たれる弾丸は背後に迫っていたグラスターを貫いていく。
「え、ええ……!?」
右側のモニターに映る濃い緑色の長い髪。
開いた瞳に感情はなく、淡い光をぼうっと灯すだけ。
「え、な、なんで、」
『心配だから速攻で終わらせたんだよ。まったく……一瞬も目を離せないな、これじゃあ』
ミゼルが手首を捻ると、DCオフェンサーは動き出して次々と敵機をブレイクオーバーにしていった。
ぐらぐら変わる視界。
素早い動きで攻撃を避けながら引き金を引く。
放たれた弾丸は全て敵機のコアボックスに当たり、致命傷を与えていく。
『はい、おしまい』
着地した時に周りにあるのは、ブレイクオーバーしたロシウスの敵機だけ。
味方機は《援軍が来る前にフラッグを奪え!》と、突如入ったジンさんからの通信に従って走っていた。
《いつもの調子が戻ってくれて良かった》
「あ、あはは……」
カゲトラさんから入った通信には苦笑いしか出ない。
興味なさげに彼方を見つめるミゼルが操作を手放し、私に変わる。
すぐにDCオフェンサーの足を動かし、フラッグを目指すみんなに続いた。
「そうだミゼル、おかえり」
『ああ、ただいま』
《ん?アユリ、なんか言うたか?》
「なんでもないよ!」
2016.05.26