水平線の向こうへ沈んでいく太陽を背に、屋上のフェンスへと寄りかかるひとりの少年。
「……俺だ。聞こえるか?」
口元にあてられた端末は、CCMではなく無線機。
深い緑色の制服を翻し、少年は通信相手へと確認をとった。
「学園への潜入は成功。目下、ターゲットの特定方法に改良を加えながら捜索活動を継続中。以上」
報告を手短に済ませた少年は、フェンスの下で談笑しながら下校していく生徒達を横目で見ていた。
楽しそうにはしゃぐ姿。
その裏で動く暗い陰謀に気づく訳もなく。
《学園生活の方はいかがかな?“伊丹キョウジ”君》
無線機から聞こえてきたのは、すこし幼い印象を受ける少年の声。
どこか嘲笑うようなトーンに、伊丹キョウジと呼ばれた少年は肩を竦ませ、「慣れない事ばかりだ」と淡々と告げた。
《報告によると、通常の授業にはあまり出ていないそうだが?》
「そいつは契約外だ。そこまでやる義理はない。だが仕事は完遂する。そこは信用してもらいたいね」
《ああ、わかっているとも。では、良い報告を待っている》
面倒そうに返事をしたキョウジは、通信を切ると無線機を無造作にポケットへと突っ込んだ。
「カゲトラさあぁあん、今日の数学教えてくださいぃいい」
「分かったから絡み付くな。歩きづらい」
「ウチにも教えてーな?」
「わかったわかった、スズネも絡むな」
「人気者だね、カゲトラ」
「タケルも混ぜてあげようぞ……ほれー!」
「わ、わあっ!?」
下から聞こえてくる楽しげな会話。
キョウジは興味なさそうにフェンスから離れると、屋上の扉に向かって歩き出した。
2016.05.26