「今日は学園休みやのに、なんで学園集会あんねん!行きたないわ!」
「ブツクサ言ってないで準備しろ。ほらアユリ、リボンが曲がってる」
「え、部屋出る前はちゃんとしてたのにな……と思ったけど今日鏡見てないや」
「まったく……」
いつもなら学園はお休みな筈の日曜日だというのに、今日は集会があるらしい。
そんなの月曜日でもよくねえかと思いつつローファに足を突っ込む。
曲がったリボンはカゲトラさんが直してくれて、ちょっとお母さんみたいだと考えた。
「あれ、ねえタケルは?」
「もう行ってる」
「ほんまかい!」
「今日は朝からラボに籠もるつもりだったらしいからな」
「さすがメカニック……休日だろうと仕事をするとな……」
「いいから早く歩け二人共。少し遅れ気味なんだぞ」
カゲトラさんに背中を押されながら、スズネと小走り。
いつもなら見れない、カゲトラさんのちょっと焦ったような声に笑ってしまった。
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広い体育館に集まる全ての生徒。
それぞれの仮想国ごとに整列し、皆がステージに視線を向けた。
なにやら高級そうな木材でできた台に歩いていくあのインパクトしかない学園長。
学園長がその台まで来ると猿田先生が声を張り上げ、「学園長より訓示!」と言った。
マイク使ってないのにすんごい声響くな。
「皆さん、今朝もご機嫌麗しくて?今日は皆さんに嬉しいお知らせがあります」
先生側が生徒に言う嬉しいお知らせってだいたい嬉しくないよね。確か小学校の時にも経験したわ。
あの時は宿題二倍だった気がする。あの先生絶対に許さない。絶対にだ。
「今月をウォータイム強化月間とし、時間をこれまでの倍、15時から17時までの2時間とします」
ウォータイム倍!?まじかやった!!嬉しいお知らせだった!
前に立つスズネが小さくガッツポーズしたのは見逃さない。
「思い切った事しはるな学園長!今までの倍暴れたるわ!」
嬉しそうに笑うスズネに同意する。
ウォータイムの時間が伸びる……経験も沢山詰める。楽しみだ。
「スズネ、嬉しそうだけど……ウォータイムの時間が伸びるってことは、それだけ機体の損傷やロストの可能性も上がるんだよ?」
「タケルの言う通りだ。戦略性も含め、仮想国の力がより顕著にでるだろうな」
「あー……ですよね……全然機体のダメージ、全然考えてなかった……」
「でもでも、ウチらにはドルドキンスはんがおるし、その辺は問題ないんちゃうん?」
隣に並ぶタケルもカゲトラさんも話に加わり、時間が倍になる事を聞いて周りの生徒達もざわつく。
なんとなく周りを見れば、目立つオレンジ色の髪の毛を見つけた。
アラタはクラスメートと色々話していて私に気づかない。
寂しい気もするけど仕方ない。一応、私達敵同士なんだよね。
「皆、静かに!」
生徒の声が大きくなって来たころ、日暮先生の声がかかる。
わあ、日暮先生……あんなに大きな声も出せるんだなあ。
そんな様子に口元に手をあてて笑う学園長。いちいち動作が優雅すぎる。
「さすが腕に覚えのある我が学園の生徒達……皆に喜んで貰えて嬉しいわ。……さあて、次はお待ちかね。今週のシルバークレジット高額獲得者の発表よ」
お、来た来た。
シルバークレジットの高額獲得者発表会。
だいたいは大国の切り込み隊長とかだったりして毎回のように同じ面子がトップ5に居るのだが、たまに別の名前が出るからちょっと楽しみなのである。
この人今週調子良かったんだなと。
「五位、高等部三年。石川タケヒロ。四位、高等部二年、ロバート・レイノルズ。三位、中等部三年、高崎ケンタロウ。二位、高等部一年、白牙ムサシ」
あ、ホワイトフォックス。
白牙ムサシの名前があがって、やっぱりあの人すげーなと思う。
この人はシルバークレジット高額獲得者発表会における常連だ。いっつも上位にいるから、本当に尊敬する。
敵に尊敬、なんておかしいことかもしれないけど。
「そして、今週の最高獲得者は……中等部二年、法条ムラク!」
知ってた。同級生の中で群を抜いて有名な存在、法条ムラクくん。
バイオレットデビル、だっけ。
彼はホワイトフォックスよりすごいと個人的に思う。
だって専用機あるんだよ。それってすごくね?
「また彼かあ」
「当然、っちゅー顔しとるな。まあ高等部ぶっちぎって五週連続トップ取ったら当然か」
タケルとスズネが見るのはロシウス生徒の列。
視線を追うと、綺麗な立ち姿の黒髪の男の子が居る。彼が法条ムラクくんか。すごい話しかけづらい雰囲気出てる。正直恐い。
「学園最強のプレイヤーって噂なんだよ。ロシウス連合のエースプレイヤーさ」
「見ときや、あのスカシ顔。すぐにウチが引っぺがしたる!」
威嚇する猫みたいに法条ムラクくんを睨むスズネ。
今は皆真面目に学園長の話を聞いてる最中だから別にスカした顔はしてないんじゃ……?なんて言葉、届く筈もなく。
2016.05.18